翻刻
出る悪水の如く臭気は鼻をつき味は辛
烈にして胆礜(たんぱん)の性にひとし故に筋肉を腐蝕【左ルビ「くさらし」】し
堅硬なる骨を朽腐【左ルビ「くちくさらす」】す是によつて鼻柱も
落頭骨も砕(くだ)く梅毒のみならず他の病もまた
然あるなりかく恐怖すべき悪液を貯へながら
も多年生命を保つものは幸に其液一所に
聚り凝(こる)がゆゑなり若悪液周身に散蔓するか
又は生命を主る要所を侵し傷る時は忽に
死するものなり其悪液の一所に聚り瘡となる
ものは前に譬へし草木の幹(みき)ばかり半朽て
枝葉に枯ざる所有が如し是其根へ腐のいら
ざればなり又気の変により閉塞して病を
なすといふは病 皮(かは)の裏にあることなれば容
易に説示しがたし仮令は少しく心下の痞と
腹の微満【左ルビ「すこしはる」】する類は多くは気の閉塞【左ルビ「とぢふさぐ」】するによる
なり故に噯気(あいき)【左ルビ「をくび」】すればもれ放屁(ほうび)すればもるこの
滞気の泄れ去により緩りて快を覚ゆる
なり又其他留飲に似たる症にもあり是も