翻刻
世を憂るの心においては聊(いさヽ)か師の七 戒(かい)の深情(しんじやう)に
似たること有 ̄リよりて其 厚意(かうい)に継(つぎ)共に是を同志
に伝へむ事を冀(こいねが)ふ師翁速に許(ゆる)し給ふに説ひ
頓(やが)て其 旧稿(きうかう)より大略を抄出して其後(そのしりへ)に附す
是師翁の忠誠(ちうせい)に興(くみ)し彼(かれ)救(すく)ひ我 助(たすく)る同袍(どうほう)の人の
恩徳に報施(ほうし)せむとするの微衷(びちう)なり才 短(みしか)く位賤
しき身として斯(かゝ)るくた〳〵しき痴言(ちげん)を述(のべ)世の
笑を取るをも省(かへりみ)ざるは我 医門(いもん)の古き文(ふみ)には病
危(あやう)ふして後 薬(くすり)して功験【左ルビ「しるし」】を得るは到れるの
術にあらずたゞ初より病(やま)しめざるやうに教(をしう)るこそ誠
の良医なるべけれと見えたれば拙き筆におそれ
恐るゝ所なれども我常々見聞しことどもを
書つヾれるまでなり見る人取捨してこれを
択ばゝ一つの助けともなりなむかといふ其 年(とし)
の初冬徒弟大槻【左ルビ「おほつき」】茂質謹で記す
賤者 ̄ノ病不_レ尽_レ治 ̄ヲ
貧賤は人の悪(にく)む所といへとも人々天より受得(うけえ)たる
所なれは逃(のが)れても逃れざる所なりされば貧賤に