翻刻
もの多し是らの類ひ幼きより何事も意(こゝろ)のまゝに為(なし)
来りしかもする事なす事廻りよく少しも労苦といふ
事を知らざる身に若も病受るゝとある時は平生の
ことゝ同し様に心得其病の浅深も弁へず卒(にはか)に平(へい)
愈(ゆ)なるものと思ひ頻(しき)りに治を急き衆医(しうい)を招きて
治療を乞ひあしたゆふべに薬を転(てん)じさせること
なきに人参犀角等を用ひ貴重の薬は如何
様の症にても効あるものと心得勢ひに任せて
服用しそれも欲ふかく用るに度を過し此あや
まちにより知れたる症も朝夕に進退する故其節
度を失(うしな)ひ其治を誤(あやま)る者少からす是全く彼を信する
かとすれは是を信じ初を疑ひ後に惑ふによる総て
富豪(ふがう)の家の悉(こと〴〵)く愚(おろか)なるへきにはあらねとも其
家へ出入する眷属(けんぞく)あまたある物故それらの類寄り
集り一坐のあいそうに阿(おもね)り諂(へつら)ひを第一とし何の
弁へもなく色々のことをいひつのり下地の素(しろう)人を迷(まよ)は
すること多し殊に飲食の手当は其家にて届(とヽ)き
過る程なるに又所々より病気見舞と唱(とな)へおくり