翻刻
来る物多く心に好ぬものまでも進め与へ自らも貪(むさほ)り
食ひそれが為に苦しみを加(くは)ふる者もありこれらの類ひ
彼も益なく是も益なく終に軽症重症となすに
至るかゝる時に及むては家人も亦同し様に疑惑(ぎわく)し
其決を巫祝売卜(ふしゆくはいほく)に託(たく)し生命を失ふ者 挙(あけ)て計(かそ)へ
がたしこれ勢ひあるの妨(さまたげ)にして疑惑(きわく)より誤(あやま)りを
生ずる所なり宜く心を用ゆへき事にあらすや又
都家富豪の人には間々書物 数寄(すき)とて生物識(なまものしり)
の輩も有り中には方書の片端(かたはし)をも読(よみ)若(もし)その
人の家に病人ある時は治を託する医者の云事
をも信ぜずひそかに私意を加へて病の手伝
なす事あり所謂書を以て馬を御するの類これ
無益の第一にして却て害を招くの階なり初より
学ひ老にい至りても熟せさるは医者の業(げふ)なり千
態万状の病変 毎事(ことこと)に手がけ心目に慣習し
自ら数人を療治せされば其機会【左ルビ「ぐあひ」】は得かたき物なり
中々 片手業(かたてわさ)になることゝ心得害を招くは不学の
人より却て大なる愚といふへき也斯る家の病者は