翻刻
軽きも必ず重きに至る物也諸症ともに漫(みた)りに薬を
投することは仮初事にならず医の業は生命に
係る所なれば自ら求めてかならず其大事を誤る
ことなかるへし富有の家いよ〳〵深く心を用ひ
思慮ある人に信実にこれを謀(はか)りて医治を決し
みだりなる雑説を執用ひず私意をは猶更に加ふる
事なく常を慎み変を守り功者の一医家に
委任【左ルビ「うちまかせ」】し其【左ルビ「その」】程々に病患はやく回復に至るやうに
なすべき事なり富家は万つ事足る身なれば
此所に心さへつきなばなしよきことなるへし
尊貴 ̄ノ病不_レ決_レ治 ̄ヲ
貴人は天の寵霊(ちようれい)によりて生れ給ふ御身なれば
羨むへきの第一なり然れとも死生は天にある
事なれば貴人といへども逃れ給はざるはこの道なり
其病あるに至りては却て不幸にして非命の死を
得給ふ事もあること也是尊貴におはしまして
止事を得ざる処あり如何となれば先 胎(たい)内より
其養ひ天 授(じゆ)自然にたかひ給ふこと多し《割書:賤しき者の婦は|妊める事あり》