翻刻
【右丁】
○人身の上にて陰陽といふ事
天地の上にて陰陽をいふときは日輪(にちりん)ばかり陽に
して余(よ)は皆陰也故に人身の上にても陽気(よふき)《割書:からだのあたゝ|かみをいふ》
の外は皆陰なれとも人身の上にて陰陽とわかちいふ
ときは血(ち)と液(うる)ひをさして陰と云ひ温煖(あたゝかみ)の気をさし
て陽といふなり其陽気の人に寓(くう)【左ルビ:やど】するは人生れて
元気(げんき)口(くち)鼻(はな)に出入するとき肺の臓 縮張(しゆくてう)【左ルビ:すぼまりはる】して心肺
相摩【左ルビ:すれあひ】し《割書:是心肺すれあひてふいごの|風をせうするがごとし》温煖の気を生ずる是を
名ずけて陽といふたとへは金と石と相うちて火を
生ずるがごとししかうして其陽気の周身にいたる
【左丁】
は人生れたる時いまだ飲食せされども胎中(たいちう)にて母
よりわかちたる血有る故心臓より直に陽気其血
に乗(の)りて一身をめぐる是陰を得て陽めくるなり
其後は飲食する処のもの胃中にいりて消化(せうくわ)し其
精微(せいひ)【左ルビ:きつすい】の津液(みづけ)を心の臓におくれは陽気をもつて蕩
摩し血となる血の赤きも則陽の色なり故に
人身の心肺は陽の元 脾胃(ひい)は陰の元なり心は胃中
よりおくる処の血をもつて陽をめぐらし脾は心
よりおくる処の陽気をもつて飲食する処の
水穀をむしなして陰を生する是陰陽相得て