翻刻
【右丁】
陰をたもちて人身のはたらき有るものなれ然れ
ども陰陽の性をいふときは天地 開闢(かいひやく)より陽の性は
上に引揚るが性なる故に人食をほしゐまゝにして
起居 動作(とふさ)をなさずといへとも人身の陽気は日夜(にちや)
毛孔(けのあな)より発越(はつゑつ)【左ルビ:ぬけいつる】して天に皈する故に時にして
空腹(くうふく)になり陰(いん)もまた天地 開闢(かいひやく)より陰の性は土
に皈せんとするか性にしてたとへは上下より相ひくか
ことく此ひつはり切るゝ時は陰陽おもひをとぐる
故に陽は天に皈し陰は土に皈し尽(つく)す故に人
死する也故に人の生るは清(すめ)るは升(のぼ)らんとし濁(にこ)れ
【左丁】
るは降(くた)らんとしてこそ人身のはたらきはあるべけれ
いままたこれを近(ちか)くいはんに陽(よふ)は升(のぼ)り陰は降るか性
なれども夫にてはたとへば物を煎(に)るに火を上にして
水を下におくは天地の定位(でうい)にて清めるものは升(のぼ)り
濁れるものは下るなれどもかくのごとくにては終に
水湯となる事なく是則陰陽 反(はん)して湯(ゆ)となる
の理なり人倫(じんりん)鳥獣(てうじう)草木(そうもく)の生長(せいてう)するも此理(このり)にて
地心の陰よりは下へ引く故に根(ね)有りまた太陽(たいよふ)の
陽(よふ)をもつて上へ引く故に枝葉(ゑだは)天に聳(そび)ゆ是下る
津液(しんゑき)《割書:水けの|事なり》を上へ引き上るは陽気其陽気をおさゆる