翻刻
【右丁】
にて務(つと)めてなす事にあらず人々 生(うま)れながらを
直(なを)きと云也 中庸(ちうよふ)に《振り仮名:天命之謂性率性之謂道脩|てんのめいこれをせいといふせいにしたがふこれをみちといふみちに》
《振り仮名:道之謂教|したがふこれをおしへといふ》と有りて人は天の命によりて生れたる
ものなれば私(わたくし)に生(むま)れたるものにあらず故に此率性(このせいにしたがふ)を
直しといふなり扨此性にしたがふといふ事はいかなる
事ぞといふに只天理にしたがふをいふ此天理にした
がふといふは身の程を知(し)り過分(くわぶん)の望(のぞみ)をやめ各(おの〳〵)の
職分(しよくぶん)を守り其外(そのほか)をねがはざるは養生の大意(たいい)に
して率性の極(きよく)とす扨一切の者 有情(うぜう)非情(ひぜう)の禽(きん)
獣(じう)草木(そうもく)にいたる迄性にしたがはざるものなし馬(むま)の
【左丁】
牛(うし)に似(に)たる事をなさず鳶(とび)又からすの業(わざ)をなさず
草木(そうもく)も皆々かくのごとく是(これ)皆(みな)性(せい)にしたがふのすがた
なり人も人の性にしたがふときは道なれども人には
私心(しゝん)といふもの出来(でき)て兔(と)角(かく)其性にしたがひがたき
故に教(おしへ)の道をもふけて性にしたがはしむる爰(こゝ)に養生
といふもこれまた教(おしへ)なりされども聖賢(せいけん)の道といへども
外(ほか)に有るものにあらずして吾(われ)に固(もと)より有処の道を
教(おしゆ)る事也 然(しか)るに其(その)我(われ)に固(もと)より有る処の道なるに
何故其道を失ふぞといふに其 私心(ししん)の強(つよ)くなるに
より其道を失ふものにて私心とは天よりうけ