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【右丁】
得たる心に非(あら)ずわたくしになしたる心也然して
此私心の出処いづくなるぞといふにもと本心より
出てその生(むまれ)ながらは性善(せいせん)なるものにて水にたとふ
る時は清き水のごときものなれどもかの人欲(じんよく)人我(にんが)の
泥土(ていど)【左るび:どろつち】塵芥(じんがい)【左ルビ:ちりほこり】を以(もつ)て濁(にご)らしこの心の全体(ぜんたい)は天より
得(へ)たる同一体(どふいつたい)なれともこれを曲(まげ)てたもつ故に私心
といふ是(これ)を近(ちか)くいへば盗(ぬすみ)をなすは悪(あし)きとおもふは
人の天性なれども宝(たから)を欲(ほつ)するの余(あま)りには其性を
曲て賊(ぞく)をなす是私の心なり故に万事此私心にて
取捌(とりさばく)事は悪敷 真(まこと)の心にて為す事は善(ぜん)なれば
【左丁】
とかく此私を去り真の心を用て行ふ時は率性
の理なるが故に養生にもかなふべしすべて一切の
心を労(らう)し身を苦(くる)しむるの本は皆此私心より
おこる事多し此私心を去(さ)り真(まこと)の心を用て事を
なしたるに其上にも害(がゐ)に逢(お)ふは天命といふもの
にて聖人(せいしん)もしば〳〵厄(やく)せられ給ひしと同じけれ
ば只此私心をさり足(た)る事を知(し)り身分(みぶん)不 相応(そうおう)の
事を不願は自(おのづから)性(せい)にしたがふの理にかなふが故に心も
ほがらかにして無病長寿なるべし若また此理
に背(そむ)く時は多病にしてしかも短命(たんめい)なるべし是を