翻刻
【右丁】
たとふるにいかなる大魚(たいぎよ)といへども大儀(たいぎ)にもおもわず
養ふがごとし然れども人(ひと)は空中(くうちう)に住(すみ)て空(くう)を知ら
ず魚は水中に住(すん)て水を不知といへるごとく此(この)徳(とく)目(め)
に見へぬ故不知也いかんとなれば其(その)本元(ほんげん)声臭(せいしう)【左ルビ:こへ におひ】なく
限量(げんりよう)【左ルビ:かぎりはかり】なく私慮(しりよ)分別(ふんべつ)を離(はな)れたるものなるを以て
孟子も至大至剛(しだいしがう)なりといゝ又 難言(いゝがたき)といふも此事
なり斯(かく)のごとく霊妙(れいめう)不思議(ふしぎ)なる徳を人にうけ
たる故に衆理(しうり)をそなへて万理に応(おゝ)ずるの徳有り故
にまた其名を主宰(しゆさい)とも本心とも又 仏家(ぶつけ)には仏(ぶつ)
性(せう)とも本来 面目(めんもく)ともいふかの明徳(めいとく)といふも其心の
【左丁】
明らかなる徳(とく)をほめたる名(な)にて其心の人に具(そなは)るは
未生(みせう)の前(まへ)稟受(うくる)の時よりこれをうけて己に具(そなは)りたる
ものなり扨其心の事を孟子 尽心(じんしん)之 篇(へん)の註(ちう)に
程氏曰(ていしのいわく)心也(しんなり)性也(せいなり)天也(てんなり)一理也(いちりなり)自理而(りよりして)言謂之天(いふときはこれをてんといゝ)
自稟受而(うけうくるよりして)言謂之性(いふときはこれをせいといふ)自存諸人而(ひとにそんするところより)言謂之心(いふときはこれをこゝろといふ)張子(てうしの)
曰(いわく)由大虚有天之名(たいきよによつててんのなあり)由気化有道之名(きくわによつてみちのなあり)合虚與(きよときとあわせて)
気有性之名(せいのなあり)合性知覚(せいとちかくをあわして)有心之名(こゝろのなあり)とありて空(くう)に
由(より)て天(てん)の名(な)有り気化(きくわ)によつて道(みち)の名有り虚(きよ)
と気(き)と合せて性(せい)の名有りといふて万物(ばんもつ)かたちを
あらはす各(おの〳〵)性有り故に雨情(うぜう)非情(ひぜう)のものともに