翻刻
【右丁】
性にあらざるものなししかれども心(こゝろ)といふは含血(ちをふくむ)
の者ならてはなき故に性と知覚(ちかく)を合して心の
名ありといふ故に性の字(じ)は心と生にしたがふ夫(かの)
天の一元より出たるをいふ也故に天之命之謂(てんのめいこれをせいと)
性(いふ)といへりまた此知覚といふは知(ち)は知(し)る事 覚(かく)は
覚(おぼゆ)る事にて此知覚ともにかげもかたちもなき
ものにて其(その)証拠(せうこ)は此 知覚(ちかく)のよき人は数(す)万の書
をも知り覚へまた知覚のさとからざるものは其十
分の一にもおよばず是もし人の心といふもの心之臓
一はいぎりのものなれば知覚とも程の有べき事
【左丁】
なれども知覚におひては不可思議のものなる故にこれ
をはかりしるべきものなしされば心といふ字に人の
心の臓のかたちを図(づ)して【心臓の形の図】と云は人身におひて
は心の臓は尤 貴(たつと)む処の臓なる故彼一物を心(しん)に比(ひ)
したるのみにて必(かならず)此心といふ字(じ)にかゝはるべからず
○心を労(らう)する時は身を傷(そこな)ふ事
されは心は虚霊(きよれい)不昧(ふまい)【左ルビ:くらからず】にしてかげかたちもなく火中
に入りてやけず水上(すいせう)に臨(のぞみ)て溺(おぼ)れぬものなるに
何(なに)を以て痛(いた)み煩(わづら)ふ事有りと云に心は不生不 滅(めつ)
のものなるが故に煩ひいたむ事はなきものなれども