翻刻
【右丁】
○平生養生 心得(こゝろへ)の事
人の病中は国家(こくか)の治乱に比すれば病中は乱(らん)にて
病て薬(くすり)するはたとへばみだれたる処へ兵(つわもの)をくはふる
と同じく一邪(いちじや)一 毒(どく)あるものに薬(くすり)を用る時は味方の
薬をして敵の邪と戦(たゝかは)しめてみだれたる国(くに)を治(おさむ)るが
ごとしさて平生無病なるときはよく治りたる国の
ごとくなれば其時に不養生をして敵を引 納(いる)る事
なき様にすべし国の政道(せいとふ)よき時は太平なるがごとく
其乱るゝには極(きわ)めて所以(ゆゑん)のあるごとく病(やまひ)に六気七情
ありて六気外より侵(おか)して七情内より傷(そこの)ふたとへは七情は
【左丁】
反(かへ)り忠(ちう)のものありて城内(でうない)より乱をおこしたるが如く
六気は城の外(ほか)より侵(おか)すといへども敵(てき)を防(ふせ)ぐのそなへよき
時は侵す事なしといへども敵をふせぐの備(そなへ)おろそか
なる時はて敵をして引入るゝがごとし流行(りうかう)の厲気(れいき)は
一気の流行(りうかう)にて大軍の敵(てき)襲(おそふ)が故に人々 多(おゝ)く病(やめ)と
夫も守護(しゆご)の備(そなへ)厳重なれば侵(おかし)がたし是(これ)守(まも)りのよき
人なり夫をたとへば夏日(なつむき)午睡(ひるね)などをするに衣衾(ふとん)を
不覆(かふらず)して臥(ふす)ときは必す風に感(かん)ず是(これ)守りのおろか
なるが故なりかくいへば邪気は天地の間に満(みち)て有る様に
おもへども左にあらず邪気といへども天地の間に有る