翻刻
【右丁】
熱湯(ねつとふ)といふがごとく邪気と陽気(よふき)は火と水(みづ)とのごとく
相交(あひまじわ)る事なき故邪気の領分(りよふぶん)へは正陽(せいよふ)の気いたること
あたわず故に陽気のつもり重(かさな)りたるをさして熱(ねつ)と
はいふものなれ然るに胃中の熱邪(ねつしや)などいへるはその理を
不暁(さとさざる)の甚(はなはだ)しきものなり
○発汗の薬を用る時汗の発し様の事
汗はもと人身の津液(しんゑき)にして大切(たいせつ)なるものなるをおほく
は汗(あせ)を邪気と心得るは大なる誤(あやまり)といふべし汗は正敷
津液にて一身を養ふものなれども邪気を除(のぞか)んがために
無拠(よきなく)津液に戴(のせ)て押出(おしいだ)すものなれば必汗を邪気と心得
【左丁】
みだりに多く汗(あせ)をすへからず医書(いしよ)にも汗 多(おゝ)ければ病
不除(のぞかず)また汗多ければ陽を亡(ほろぼ)すともありて余(あま)り多(おゝ)く
汗の出るときは邪気の去(さら)ざるのみならず反て陽気を
亡(ほろほ)して危(あやうき)にいたる汗多出て陽を亡すといふ理は陽
気は初(はしめ)にもいふごとく天に皈するが性なれば毛孔(けのあな)より
汗につれて陽気天に皈する故陽を亡すといふまた
人は陽の一気にてはたらきをなすものなれば陽気の
去(さ)るにしたかふて元気おとろふるにいたる故に発汗の薬を
用ひ発汗せんとおもふ時は先薬をせんじおき寝処(ねところ)を
かまへ已(すで)に服(ふく)せんとする時右の寝所(ねところ)に入り薬(くすり)をふくし