翻刻
【右丁】
外へおし出(いた)す故に総身(そうしん)【惣】にも汗(あせ)出(い)づ酒もまた辛味(からみ)を
おもふ具(ぐ)したる故に忽 顔色(かをいろ)に出るも亦(また)天(てん)に皈するの理
なるが故に火に似(に)たる味とはいふ桂枝(けいし)の推陽(よふをおして)達表(ひよふにたつする)といふ
も辛味のなす処 蕃椒(とうからし)【番は誤】なども熟(じゆく)するときは色の赤(あか)く
なるも是陽の色なり故に水湿(すいしつ)の気(き)を散(ちら)する事は至(いたつ)
て烈し先年 阿蘭陀舟(おらんだふね)皇国へ渡海(とかい)之時舟中にて連
日 雨(あ▢)降(▢)りつゞき湿邪に当り着船(ちやくせん)の後湿邪にて悩(なやむ)もの
多(おゝ)かりしに其時おらんだの医者(いしや)剤中(ざいちう)に蕃椒(とふがらし)を入れて
せんし用ひしに水湿(すいしつ)の気こと〴〵く表(ひよふ)に発(はつ)し須臾(しゆゆ)に
気力 復(ふく)せしといへり是を見るに水気を乾(かわか)す事火に
【左丁】
しくはなし故に多く辛味を食するときは火に似たる
味故に水気を乾(かわか)して血(ち)乾(かわく)なり
○苦味(にがきあじ)
苦き味は陰の至りの味なれば陽気を悪(にく)む味にして辛(から)
味の表(▢▢▢)にて陽気をおさゆる味也故に何程 塞(ふさが)りたる時にて
も熊胆(くまのい)を用る時は痞(つかへ)を除くといふも下へおさゆる事甚し
き味なるが故なり大黄(だいおふ)黄連(おゝれん)黄芩(おゝごん)の性(せい)皆其能は異(ことな)りと
いへども陽をおさゆる事は一理にて大黄は大便を通し黄連(おゝれん)
は痞(つかへ)を除(のぞ)き黄芩は熱を解(げ)するといふも皆陽をおさゆる
の味なり故に腹(はら)の痛(いた)む時 木香丸(もくかうくわん)を用て痛(いたみ)を治すると