翻刻
【右丁】
火なるに其熱する処へ火を用るはいかなる事ぞといふ
に是又一理あり歯(は)の痛(いたむ)ときは右の歯痛ときは右の臑(ひし)
の曲地(きよくち)の穴(けつ)に灸(きう)し左の歯(は)痛(いたむ)時は左の臑の曲地の穴に灸
し其病を治(じ)する是上へ衆(あつま)る陽気(よふき)を臑(ひぢ)より灸して
下へ曳(ひ)くことにて陽をもつて陽を引くの理あるが
故に痛止(いたみやむ)也逆上する時足に灸(きう)する時は逆上下る類是 全(まつた)し
◯灸の事
灸は火なり火は水を乾(かわか)すの性なれど又陽気の運(めぐら)ざる
処へ陽を運らするの功あり然(しか)れとも内より温熱(うんねつ)の薬
を用ると外より灸をするとは陽のはたらきに違(ちが)ひありて
【左丁】
灸の功は陽気を運らすを専(もつは)らとす故に背(せ)に灸する事
ありて腹に灸する事なしといふも一 概(がい)の論なれども又
一理有る事にてたとへば背は南面の家の北 裏(うら)のごとく
南は前にて陽の走(はし)りよきが故に陽の運りよく背(せ)は
後(うしろ)にして見(み)えざる処また骨(ほね)の多(おゝ)くある処故陽気の運(めぐ)
りよろしからず癰(よふ)杯(など)の発(はつ)するも多(おゝ)くは背(せ)に発(はつ)するもの
にて是日陰の物の腐(くさ)るごとくなれは背(せ)に灸(きう)して陽を
導(みちびく)の理なりまた逆上(ぎやくぜう)する者 足(あし)に灸するも其理にて陽気の
性は上へ皈するの性なれば陰虚(いんきよ)する時は陽気天に皈(き)せん
として上に登る故(ゆへ)に下部(げふ)より灸する時は上(のぼ)る陽気を