翻刻
【右丁】
下に引くによつて上の陽気下へ皈(かへ)らんとする時 陰血(いんけつ)
上に位(くらひ)し陽気下に客(かく)し相(あひ)交錯(かうさく)【左ルビ:まじわりて】し逆上(ぎやくぜう)をやむこれ
灸は陽を引の理を見るべしまた灸(きう)するに肥大(こへたる)の人は
壮数(そうかづ)を多(おゝ)くし痩(やせ)たる人は壮数をすくなくしてよしと
いへることありたとへば是は領分(りよふぶん)せまき処は早(はや)く行き届(とゞ)
くの理なればさもあるべしされど是は無病なるものに灸
するの法なりとしるべしまた腹(はら)にも尤 灸(きう)する事あり
唯(たゞ)灸して不宜は津液 乾燥(かんそう)【左ルビ:かわきかわく】したる人には乾(かわ)けるに火を
用るの理なればよろしからず又 平生(へいぜい)滋味(じみ)膏梁(かうりよふ)を食し
て起居動作をせざる人は常(つね)に灸をする事よし近来
【左丁】
多(おゝ)き留飲(りういん)の症(せう)などには灸をする事大によし是留飲
は水の溜(たま)れる病なれば火を用ひて運(めぐら)する故によろし
○針(はり)の事
針は古より有りて救急(きうをすくふ)の術(じゆつ)は是にまされるものなく
病に的当(てきとう)する時は灸薬の及ぶ処にあらず誠に死(し)せる
ものをも蘇(よみかへ)らし臥(ふ)せるをも起(おこ)さしむるの類皆 針術(しんじゆつ)にて
なせる処 功(かう)を速(すみやか)に得る事是に勝(まさ)るものなしされど
古に用(もち)ひたる針(はり)は今の山稜針のごときものにて血(ち)を取(と)る事
を専(もつはら)とせしもの是又功を取(と)る事至て速(すみやか)なりしが今
の針には大に異(こと)なり扨今の毫針(がうしん)を用るの理いかにもいふ