翻刻
【右丁】
得んや第一蚕は正敷生を備りたる名虫にて男 女
しんくの手になれりゆへに金銀に不足なき人も其
とちにそなはらは蚕に心をよせ身に不自由の苦労
をなしかひそたて上りに残らす悪敷なる事是
たしかなる養育をしらさるゆへ也それ養蚕の手
たては亭主の心かけ専一也よくとまよひの両道にわかれ
第一たねもとを正し譬は亭主五枚はかんとおもはゝ
四枚にへらし家分限よりよけいにはくへからす
とかくたねもとをひたり【うヵ】にせす多くは其所により非
道に直段をこきる事を手からにする人有これ大きに
そんなるへしたゝ現在に見ゆることく心さし悪敷
場所にては年々悪たねをもとめ蚕さんく【〳〵ヵ】にして
村から悪し又よき場所にては聞およひ家は人に
まさるへし人はわれをとらしと勝たる上たねをあ
たへるゆへ年々蚕繁昌にして富貴なるもの也
【左丁】
蚕種は六月より十月まてすゝしき所にかけ置其後寒水へ入る
事無用也却て手違有へし又は家内にて火をつよく焚
せつ其心得有へし重【たヵ】ねはかりにあらす蚕も左之通也
第一蚕しつめはく事秘伝なりはき立の前たね
二枚に籾ぬかを一俵のつもりに■【干ヵ】とをしにてこみを
とり置或はこばかいの所はすきま〳〵を残らすはり
鴨居より高くつりたなをこしらひ蚕一ツ■【出ヵ】のしたる
頃つき紙につゝみ炉より五六尺去高き所にかけ置へし
一旦に出る利也大火をたきゑからす事無用二日
目の四ツ時より八ツ時まてあたゝかなる節ときおろし
若雨ふりか或は寒き節にはかたはらにて昼夜火
少しツヽ焚へし元来はき立のやうきは常にわか
身を袷と単物にてよき心持にてかふへしまたは
やうき変化してしれさる時は年々蚕繁昌の家
に行其やうきをとりて来るへし其節に限らす