翻刻
忌(いみ)て軽々敷(かる〳〵しく)すべからす古人の手配(てくばり)を考(かんがふ)るに
皆(みな)此所にこそあるなれその心を用ひよと云
は美味(びみ)を食(しよく)し美服(びふく)を飾(かざ)るの事にはあらず
寒暑(かんしよ)の肌(はだへ)を堪(たふ)るほどの衣(きぬ)をもちゆべし
寒(さむ)きなど厭(いとふ)べきやなんどゝ云(いふ)べからす又矢玉
にかけたる鳥獣(とりけ「も」の)の肉(にく)なんどを生(なま)ながらくらひ
樽(たる)を傾(かたむ)け冷酒(れいしゆ)を飲(のみ)たらんはさも剛強(がうきよう)には見
えんなれと志(こゝろざし)ある人の行(おこな)ひにはあらず急卒(きうそつ)の
病(やまひ)は食傷(しよくしよう)におこるものなれは遠征(えんせい)旅行(りよかう)には常に
心を用て不 熟(じゆく)の物を食(くら)ふべからず能(よく)煮(に)たる
を食(くら)ふべし覚束(おぼつか)なくは人に勧(すゝ)めらるゝとも食
べからすこれは臆病(おくびよう)といふにはあらず聖人(せいじん)
のつねに慎(つゝし)み給ふ事はきりめ正(たゞ)しからざる時
ならざるなど論語(ろんご)にくはしく見えたり塩(しほ)は
諸毒(しよどく)を解(げ)すものなれは野菜(やさい)に塩(しほ)を和(くは)せざるは
食(くら)ふべかず渇(かつ)したるとも止水(たまりみづ)をのむべからず