翻刻
因縁(いんねん)定業(ぢやうごう)又は天命(てんめい)老少不常(らうせうふぢやう)と称(とな)ふるはよきぬ
け道なり不時(ふぢ)の災難(さいなん)にて死するものは天命とも
因縁ともいふべきが全(まつた)く病のため死するものは胃
中の毒のため死するなり是(これ)療治(りやうぢ)のとゞかぬなり
病なくして壮年(わかく|さうねん)に死するものを見ず無病の人八九十
年を経(へ)て枯木(かれき)の倒(たほ)るゝが如く死するものこそ定業(ぢやうごう)
ともいふべし世の医(い)たるもの吾(わ)が体(からだ)の病を自(みづか)ら治し
妻子(さいし)眷属(けんぞく)の病を治し而后(しかふしてのち)他の病人を治療する
こそ本意(ほんい)なれ然るを吾(わ)か病を他の医に頼(たの)むなど
といふは元(もと)療治の治定(ぢぢやう)なきが故也人の命にかゝわる
業(わざ)くれをなすに治定なき術(しゆつ)をもて身の営(いとな)みと
なすは不仁不義也世人 加持祈禱(かぢきとう)を信要(しんやう)し補(ほ)
薬持薬を用ひ口あたりよく骨(ほね)おらず苦(くる)しまず
して病は愈るものと心得(こゝろえ)良薬(りやうやく)口に苦(にが)しといふ古語(こご)を失(うしな)
ふ今 難症(なんしよう)を治療すといへば不思議の事と思ひて
謗(そし)る者あらん元(もと)病を不具(かたわ)と心得 愈(いゑ)ざることゝ究(きはむ)
るが故 愚人(ぐにん)思ふべし是も元(もと)治する術(じゆつ)なきが
故なり歎(なげ)かはしき事(こと)哉(かな)人体(にんたい)備(そなは)りて何ぞかたわ