翻刻
病(やまひ)の名(な)累年(るいねん)にまし、医書薬法年々に起(おこ)り、悉(こと〴〵)く覚
ゆるには百歳を経(ふ)るとも尽しがたし、元万病一毒なり、
頭(かしら)痛(いた)めば頭痛(づつう)といひ、足痛めば脚気(かつけ)といふ、人名あるが
如し、《割書:権兵衛|八兵衛》皆病也、今病の名のみに苦み、療治をな
すゆゑ治らざるなり、万病一毒なれば何ぞ其毒を
去に、手重(ておも)き事なし、されば万病治せずといふ事なし、
然るを此薬法は此病によし奇法(きほう)銘(めい)法と称(とな)ふること元
治定(ぢぢやう)なく当(あた)り不当りといふもの也、汗吐下(かんとげ)の三方より
外に病毒を去る方なし、又 腹中(ふくちう)にて病毒を消滅(せうめつ)
せず胸膈(けうかく)より上は是を吐(と)し胸膈より下は是を下し皮(ひ)
表(ひやう)の毒(どく)は是を発す是汗吐下の三方也世人多くは
気より病を生ず其気 胃中(ゐちう)に鬱(むすぼ)れて労症(らうせう)を生じ
又は上衝(ぜうしよう)して乱心(らんしん)となる愚(ぐ)の甚(はなはだ)しきなり此症は薬を
用ひて愚を説(とか)ずんば治(ぢ)せず近世(ちかきよ)人 智(ち)をますが故に
労煩(らうはん)す又 美食(びしよく)をなすゆゑに病を生ず人 此理(このり)を弁(わきま)
ふ時は病を生せず予(よ)が師(し)桜井祐之(さくらゐゆうし)上州の産(うまれ)にて妻(さい)
子の病を医(い)に頼(たの)み療治(りやうぢ)を受(うく)るといへども験(しるし)なく死す
祐之 壮年(わかきとき)より多病にして普(あまね)く医療を受るといへども