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【右丁】
給はぬ事也とも我等か謀にしたかはせ給はんは大殿の御心に任せ
らるゝにあらすやと申しける上は御心にも 任せ給はすされば
彼城をせめうせめしのあらそひにも 日をこそ 移し候ひつれ
それは父子の御中にて わたらせ給へは 凡の事の御教訓には
いかほどの御勘当もなどなからさらん御年も壮にならせ給ふ
御子の行末は天下の事をもしろしめさるへきを弓矢取ての
道に父の御心に叶はせ給はさりしと人の侮申さんは御子の
恥辱のみにあらす《見せ消ち:父|父》の御身にもいかて其嘲をまぬかれさせ
給ふへきこれほとの御遠慮のましまさぬこそうたてけれと
涙をなかし諫奉れは徳川殿御心とけて明れは九月廿五日
【左丁】
伏見の御陣にそ御対面有て海道の軍のやうを御物語
あり山道の軍をも向せ給ひしかは中納言殿みつから御筆を
染られ康政か此度のこゝろざし我家のあらんかきりは子々
孫々に至ても忘るゝ事あるましき由の御書を給りしとそ
聞えけるかくて此程の軍の労をもなくさめんと侍従直政《割書:井|伊》
中務少輔忠勝《割書:本|多》康政と共に夜一夜酒のみあそびしに直政
康政にむかふて 扨も 此度和殿か身をわすれていさめあら
そひしによつて御父子の中たいらかにわたらせ給ふ事
御家と国との御為のみにあらす凡世の為天下のためにて
侍れはいかなる勲にも功にもまさりぬとこそ存れといひし