翻刻
【右丁】
引具し此所よりはるかに南へまいつて山路をつたひ鳶巣に
至りかの要害を攻落して候はんには明日の合戦御方一定
かちぬへく候はんと申すさらは信長に参り此よしをはかれと
仰けれは忠次織田殿にかくと申す信長大に感し 給ひて
是程の兵に鉄炮五百丁を副られけり《割書:一説には忠次此よしを|申けるに信長大に》
《割書:いかつて此はかりこと然るへからすとのたまひしほとに忠次面目をうし|なふて其座をたつ 信長ひそかに ちかつけて まことに汝かはかりこと|ゆゝしけれとも しをゝせたるさきにはかりしられさらんとおもへは今の|やうにはいひたりはや打たてとありしかは忠次さらは御使を給つて忠次か|軍するやう見せたまふへしと望しかは金森五郎八に是程の大将を添られ|たりと云々又一説に忠次か此はかりことをのへしは徳川殿御父子織田殿》
《割書:御父子参会ありて軍評定ありし時の事也|御使に参りしには あらずといふ》忠次急きをのか陣に
帰り人々打したかへ都合其勢三千余奥平美作守貞能に
【左丁】
案内させ《割書:此説奥平家の事書にも 見えたり|一説奥平監物名蔵喜八郎 云々》夜もすがら
大雨をしのぎ 難所をこへしのゝめやう〳〵あくる頃敵の
陣におしよせ後の陣より火をはなつ時をつくりてきつて
入るおめきさけびてせめしほとに兵庫頭信実を初とし
宗との大将多くうたる奥平九八郎信昌も同しく時を
あはせツヽ城中より切ていつ小山田室賀相木か勢い
をのか陣所に火をかけて煙のまきれに落行を追つめ〳〵討所に
小山田か五百余人取て返して戦ふに松平主殿助伊忠討れ
けれは鳶巣すてに攻をとされ長篠の寄手まけ軍すと
聞へしかは四郎か軍うしろあいらになりゆきてつゐに