翻刻
【右帖】
御気色もなくて使を返されたり明る正月廿一日に下総守
勝雅また関白の御使となつて参る御物語の序に
殿は久しう都の方は御覧せぬ候今は都のやうす
むかしには事かはつて侍れは且は御心をも慰られんか
ため且は秀吉秀康御父子にも御対面のため
御上洛あるべうもや候と申けれは家康今秀吉に
対面して何事をかかたらふへき且かの父の関白殿の為
にも参会に及ふへからすまして其公達に於てをや
家康信長の御時都にのほりて見つへき所をは皆
みつ都恋しう思ふ所なし鷹を臂にし狗
【左帖】
ひかせ野くれ里くれ狩くらす何事の慰か此なくさみに
かふべきかれにつき是につきて都に登らんとも覚えず
たゞし秀吉みずから当時朝の御覚之世のなびき
したがふをたのみて家康をも門下に伺候させんする
などおもつて上洛を催されんには 汝只真直に
申せ家康又思ふ事ありと仰られしかは勝雅大に恐れて
秀吉いかてさる事を思ひたまふへき是は只勝雅が
存ずる処を申たるにて候とて頓て御いとま申て
罷帰る秀吉此よしを聞たまひとやせんかくや
すべきとあんじわつらひきふと案し出して