翻刻
【右丁】
さてかの六人の武士はお雪をさま〴〵にくど
けどもしたがはずかへつて此ごろは道すぢを
かへて湯治するやうすつらにくししやつめ
をめいはくさするはかりことありとて
一人の武士八郎が方へゆきていふ
やううけ給はる所そこもとは
さゝめの八郎どのと申てより
とも公御ばつかの武士御しのび
にて御入湯のよしかねてうけ給
いりおよべりわれらは頼光
源次左衛門がけらい四天
王の下にくはゝるもの
どもにて候御らんのごとく
入湯の内金銀をつかひ
はたしたゞ今はたとなんぎにおよぶ何
とぞ金二十両はいしやく申たし帰国の
上はさつそく御やしきまでへんさいに及ふ
べし武士のなさけはあひたがひのこと
なればたゞ今御かし給はるべしとぞのべ
にける八郎これをきゝてはなはだ
めいわくし御らんのことくしのびの
入湯にて下人一人をめしつるゝほどの
じぎなればかようの金もはづか
のしよぢにて御用だつほどは手
まはり申さずべつしてより光
源次左衛門どのゝ御けらいとあれ
ば何とていなみ申すべき有 あはせざるはぜひも
なく御ことわり申すよしこたへければかの武士大きに
いかりてその御あいさつ武士のいきぢにかけたりわれ〳〵は
こしごえの太郎小ゆるぎの磯六龍の口の龍太夫ゆひ
の浜九郎江のしま岩助星の井水右衛門とおの〳〵
せいめいをなのりてはづかしきことを申いだすも
【台詞】
〽此かたなをすりかへれは又二ばん
めのきやうげんがかけるこまい〳〵
〽ちよつと一ト口
つけざしといふ所
どうだ〳〵
〽コレおむすさやう
にやぼをの給ふな
君よ〳〵
君さまめ
〽わたくしはおゆる
しなされませ
〽あねさんすぐに
あんとおあきな
ハテまあおたべよ
【人物名右より】
水 太 雪 岩
【左丁】
よりとも公御ばつかをれき〳〵の八郎どのゆゑ
それをみこみて御たのみ申すなりはづか廿両
ばかりの目くさりがねををしみ給ふはより光
源次左衛門がいへを見くびりてのうたがひか
よりとも公御ばつかの御れき〳〵廿両ばか
りの金御しよぢなくてはばいしんの
われ〳〵にははるかおとりしびんぼう
にんなりさやうなひけうをいはず
ともはやく御かしなされよとあく
こうざうごんにおよべども八郎は
しのびの入湯といひ一ッには
むすめがふびんさにいかりを
しのびいよ〳〵金子はしよぢ
なきむねをのべてはぢをも
いとはずことはりければさても〳〵
見そこなひのおいぼれかなそのてい
にてはよりとも公すは御大事と
いふときに馬ものゝ具もきうの
間にはあひ申すまじこのうへは
むしんも
いはずかま
くらへ
帰国の上きつとお礼にまゐるべしとて
座をあら〳〵とふみ立てとなりのへや
にぞかへりける八郎おや子むねんいやま
さりてくちをしなみだにくれけるがしのび
の道中にてきよじあらばせがれ五郎が
なんぎせんことをかんべんしてやう〳〵
むねをさすりゐたり
【台詞】
〽げこでござれ
ばごめんくだ
されこれは
したり
〽せつしやが刀の
まへにたいしても
このいつぱいは
つがねばならぬ
はこねのはこわう
ヲットげさんは
ならぬぞ
〽さて〳〵
むたいな
【人物名】
磯 八 龍 濱