翻刻
穀(こく)何程(なにほど)貴(たふとき)とも金銀(きん〴〵)さへ多ければ買(かひ)もとむる事/仕易(しやす)し此ゆへに
金銀を第一として穀を心とせざるなり甚つたなき心掛(こゝろがけ)なり
其/故(ゆゑ)は二三/箇国(がこく)の饑饉には有年(ほうさく)の国より饑饉の国へ廻(まは)し遣(つかは)
す米穀も有るべきなれども若(もし)二三十国も一年にきゝんせば
廻(まは)し遣(つかわ)す米穀(べいこく)も有るべからす其時に至て金銀を煎(せん)して飲(のむ)とも
命(いのち)は助(たすか)るまじきや尤(もつとも)兵乱(ぺうらん)の世には農民(のうみん)も快(こゝろよ)く田作(たつくり)も致(いた)し難(がた)
きものなれば歳(とし)飢饉(きゝん)ならずとも米穀は不足するものなり此所
を能(よく)呑込(のみこみ)て金銀は命を救(すくふ)第二番(だいにばん)のものなる事を知(しる)米穀を第一
金銀を第二と心得て平日(へいじつ)食糧(しよくりやう)に成(なる)べきものを貯(たくは)へるを勤(つとむ)べし
是(これ)国郡(くにこほり)を領(りやう)する人第一の覚悟(かくご)にして下/庶人(しよじん)に至(いた)るまで此心/掛(がけ)
を忘却(ばうきやく)する事なかれ是大にしては武備(ふび)の肝要(かんえう)とし小にしては
活命(くわつめい)の根本(こんほん)とするなり可_レ思/糧(かて)を貯る法(ほふ)は和漢(わかん)古今の説(せつ)色々(いろ〳〵)
あれども一㮣(いちがい)に泥(なづむ)事/勿(なか)れ唯(たゞ)国本の肥瘠(ひせき)其年の豊凶(ほうきやう)を考(かむがへ)て臨(りん)
時(じ)に分量(ぶんりやう)を定(さだめ)て貯べし大㮣(たいかい)饑饉と云ものは二十年に一度/程(ほど)は
到(いた)るものなり其心掛にて貯べし
○富人(とめるひと)のいましめ