翻刻
目入位にて一体価銀四匁之由漂客等此物を/喫(ケキ)
吸する夷連の傍らにて見たりしかその呑様は常
用の煙草を二三服喫して後に此物竹の煙管へ
継き込んて煙草の如く喫吸して煙りを腹中え
吸込暫くして其煙りを吐き出し心能けに楽ミ候由
先之香港え着セし翌日何国を当とハなけれとも先上陸し
遠近を徘徊セしに遥かに向ふの方に寺院と覚しく
て棟高き壮観の家見えしゆへ彼しこに行て事を
頼んとて漂客五人打連四五町計り歩行申に後ろゟ
はるかに追かけて呼ひ招く人有故其人に/随(シタ)ひ宿所に至り
し此家裁縫屋商売の下人数多召仕有之易商家也
後に聞しに建縫屋はイキリス国ゟ出見世の商家
にて某といふもの之よし
此人因縁《見せ消ち:屋|哉》深かりけん漂客を一ト方ならぬ深切撫育シ子
弟のことく憐恤を施し諸方の官民豪家の方え引合□漂人に
目を掛け《見せ消ち:奉|給》るべしと頼ミける故彼方ゟ扶助セんと富家
の人々/張臂(ハリヒヂ)に成金銭衣食を被恵《見せ消ち:ま|》饗応し呉候其中
にもジヤデンといふ富家人と/払良察(フランス)の寺院の清僧ビジヨ
クといふ人と両人は取訳け懇にいたわり呉候由自走
して衣食満ち足り有財の身と成し故漂客彼地
にてあらゆる栄花の楽しミをもして見たりしとぞ
此ビシヨクといふ清僧も頭は俗と同しく残切なり衣服
も常は俗と同し姿なれとも七日目〳〵の祭日にハ麻の
如き浄衣を着す此衣は侯より恩賜の官服成由是
を着たる時は俗人傍ら近く寄られぬよしなり
此ビシヨク器識卓量衆ニ起たる人成りとそ昔年琉球
の都に三年居たりし迚日本の片假名をよくそらんじ
日本板制の本を持て日本紀州若山はいかに田辺