翻刻
【右丁】
又(また)は流行病(りうこうやま)ひなど病(や)み候 得(へ)ば左様(さよう)の時(とき)床(とこ)につき終(つゐ)に
大病(たいびやう)と成事(なること)必定(ひつでう)に候得ども元来(ぐわんらい)愚痴(ぐち)よりして心(しん)
気(き)をいたみ色(いろ)におぼれ身(み)の虚(きよ)し労(らう)するもし
らぬ人物(じんぶつ)に候得ば何(なに)を教訓(けうくん)申候ても不聞入(きゝいれざる)物(もの)に候。わ
が身(み)を削(けづ)る事(こと)をしらず夫(それ)を楽(たのし)みと思ひ剰(あまつさ)へ他(た)
にて心(こゝろ)ある者(もの)には女色(じよしよく)に身命(しんめい)をも替(かゆ)るやとあざけ
りを受(うけ)夫(それ)とも心付(こゝろづか)ず寐(ね)ても覚(さめ)ても色情(しきでう)のみ
心(こゝろ)よる物(もの)にてうか〳〵とする心地(こゝち)にて物覚(ものおぼへ)あし
く是(これ)腎虚(じんきよ)気虚(ききよ)するゆへ火(ひ)たかぶり逆上(きやくぜう)し
胸中(けうちう)いつも静(しづか)ならずそれ故(ゆへ)取(とり)しめなきやうの
【左丁】
心地(こゝち)いたし折節(をりふし)は召遣(めしつか)ひの下男(げなん)下女(げじよ)の名(な)をも
忘(わす)れ又(また)同(おな)じ事(こと)を一日(いちにち)に四度(よたび)五度(いつたび)も申 様(よう)成事(なること)抔(など)
有之(これある)物(もの)に候 是(これ)を医家(いか)に健忘(けんぼう)の症(せう)と申候 全(まつた)く病(やまひ)に
てはなし虚労(きよらう)より出来(でき)候 事(こと)に候 腎虚(じんきよ)の性(せう)たと
へて申(まうす)時(とき)は碁将棋(ごぜうぎ)を好(この)むが如(ごと)く負(まく)るにしたがひ
弥(いよ〳〵)あらそひに進(すゝ)む物(もの)なり真(まつ)【注1】その如(ごと)く腎水(じんすい)減(へ)るに
したがつて益々(ます〳〵)色(いろ)を好(この)む物(もの)にて最早(もはや)これ大病(たいびやう)
なり人間(にんげん)四十 歳(さい)は初老(しよらう)なり女色(じよしよく)段々(だん〳〵)うすく成(な)る
年頃(としごろ)に還(かへつ)て好(この)むは婬欲(いんよく)にて前段(ぜんだん)の通(とう)り水(みず)減(へ)る
にしたがひ好(この)むなれば虚労(きよらう)し終(つい)に死症(しせう)と成(な)るは
【注1 よみ まことの誤記ヵ】