翻刻
【右丁】
寒(かん)来(きた)れば着(き) 暑(しよ)来(きた)れば脱(ぬ)ぐ心性(しんせう)は月(つき)のごとくにし
て物(もの)にふれども止(とゞ)めずたくみなくして進退(しんたい)し
止(とゞ)まらずして自在(じざい)するを無為(むい)の真人(しんじん)と云(い)ふ。深(ふか)
き所(ところ)の水(みず) 浅(あさ)き所(ところ)の水 峯(みね)と麓(ふもと)の如(ごと)く浅深(せんしん)高(かう)
下(げ)あるとも一(いつ)水 一山(いつさん)なり十方(じつほう)是(これ)一 顆(くわ)の明珠(めうじゆ)【注】自心(じしん)に
向(むかつ)て是(これ)を得(う)べし文字(もんじ)言句(ごんく)の及(およ)ぶ所(ところ)にあらず是(これ)生(せい)を
養(やし)なふ良薬(りやうやく)亦(また)是(これ)国之本(くにのもと)
右(みぎ)者(は)あまりいたはしく存(ぞんじ)こころへを書付(かきつけ)進(しん)じ
候一 通(とう)り御演説(ごいんせつ)あり度(たく)候 迚(とて)も心用(しんよう)はあるまじ
く候へども併(しかし)命(めい)にかゆべき物(もの)もこれなく候 得(へ)者(ば)
【左丁】
はからず心附(こゝろづき)目覚(めさめ)申 間敷(まじき)物(もの)にも無之(これなく)左(さ)候へば
一人の命(いのち)ならず家続(かぞく)の大事(だいじ)親(をや)妻子(さいし)一門(いちもん)衆中(しうぢう)
の安堵(あんど)なれば貴殿(きでん)まで申 含(ふくめ)候 御舎弟(ごしやてい)へ得(とく)と御(をん)
物語(ものがた)り可有之(これあるべく)拙僧(せつそう)寸志(すんし)に候 用捨(ようしや)は当人(とうにん)御心(ごしん)
中(ちう)に有之義(これあるぎ)に候 御覧後(ごらんご)火中(くわちう)
月日
誰(たれ)殿
右(みぎ)何某(なにがし)君(きみ)と申(もうす)は高家(かうか)より御入家(ごにうか)被成(なされ)候 御方(をんかた)にて則(すなはち)
その時(とき)之(の)御主人 御弟(をんおと〳〵)なり右 之(の)通(とうり)の御病気(ごびやうき)にて顔(がん)
【注】一粒の透明な珠、人間の本心・真実