翻刻
【右丁】
と思(おも)わるゝ抔(など)申され家内一同(かないいちどう)申 分(ぶん)これなく相 成(なり)候へ
ば翌(よく)酉(とり)のとし春(はる)一切(いつさい)万事(ばんじ)主人(しゆじん)へ相 渡(わた)され安(あん)
堵(ど)いたしその後(のち)三 年(ねん)すぎて老父(らうふ)落命(らくめい)に候
右躰(みぎてい)病気(びやうき)世間(せけん)に多(おう)く見聞(みきゝ)候へば後世(かうせい)の人だ
すけにも成(な)らむかと右(みぎ)御秘書(ごひしよ)写(うつ)し且(かつ)心得(こゝろへ)の
趣(おもむき)ども書記(しよき)し置(をき)候一 覧(らん)の方(かた)実意(じつい)を先立(さきだて)
心眼(しんがん)を以(もつ)て熟読(じゅくとく)ありて心用(しんよう)あらば必(かならず)即功(そくこう)あ
るべく候 高家(かうか)の御所持(ごしよじ)に候へば憚(はヾか)り御名(をんな)あらわ
さず候 猶(なを)二 尊師(そんし)道語(どうご)ならびに何某(なにがし)君 御遺書(ごゆいしよ)
主人 一郎(いちらう)遺書(ゆいしよ)の内(うち)かき抜(ぬき)野老(やらう)愚意(くい)等(など)次(つぎ)に
【左丁】
記(しる)し置(をき)候 皆(みな)此(これ)実意(じつい)のみに候 御(をん)うたが
ひ有(ある)まじく候
月日 八郎兵衛
判
愚意書(ぐいしよ)
主人(しゆじん)一郎(いちろう)義(ぎ)野老(やらう)同年(とうねん)にて其後(そののち)三 拾余年(じうよねん)至(いたつ)て
健(すこや)かにて病気(びやうき)前(まへ)とは万事(ばんじ)心行(しんけう)表裏(ひやうり)となり一(いち)
族(ぞく)はじめ別家(べつけ)出入(でいり)の者(もの)は申に及(およ)ばず世間(せけん)にて
も徳者(とくしや)ともふし帰服(きぶく)いたし候 方(かた)多(をう)く有之(これあり)候 所(ところ)