翻刻
【右丁】
昨秋(さくあき)初(はじめ)五日ばかり少々(せう〳〵)不 快(くわい)の様(よう)申 居(をり)候 所(ところ)食餌(しよくじ)抔(など)
も常体(つねてい)にて是(これ)ぞ病気(びやうき)と申やう体(たい)もこれ無(な)く
服薬(ふくやく)もいたさず只(たゞ)道志(どうし)の方々(かた〳〵)と昼夜(ちうや)道義(どうぎ)を
かたり合(あ)ふのみにて何(なに)の苦(くる)しむ様子(ようす)もこれなく
寐入(ねい)る如(ごと)くに終命(しきよ)いたし一同(いつとう)惜(をし)み候 年齢(よわい)七十
八才に相 成(なり)候 兼(かね)て認置(したゝめをき)候 遺書(ゆいしよ)ならひに教訓(けうくん)問(もん)
答書(どうしよ)抔(など)御座(ござ)候 得(へ)ば所々(しよ〳〵)かきぬ義 別所(べつしよ)に出之置(これをいだしをき)候
随(したがつ)て野老(やらう)義(ぎ)信州(しんしう)土生(はぶ)と申 所(ところ)出生(しゆつせう)にて十一 歳(さい)より
主人家(しゆじんけ)へ出勤(しゆつきん)いたし高恩(かうをん)を蒙(かうむ)り候 生得(せうとく)愚痴(ぐち)
無忽(ぶこつ)にて瑣細(ささい)の事(こと)も捌(さは)けがたく常(つね)に心労(しんらう)苦(く)
【左丁】
痛(つう)絶間(たへま)なく其上(そのうへ)すぎ去(さり)し事(こと)いまだ来(きた)らぬ来月(らいげつ)
来年(らいねん)行(ゆく)すへの事(こと)まであんじ煩(わづ)らひ心中(しんちう)穏(おたやか)成(な)る
時日(じじつ)もこれなく二十四 才(さい)の秋(あき)大きに心痛(しんつう)いたし候
義(ぎ)有之(これあり)ある夜(よ)はなはだ苦敷(くるしき)夢(ゆめ)を見(み)候より発病(はつびやう)
覚(おぼ)へ候 夫(それ)より強(つよ)き積気(しやくき)出来(でき)候て日々(にち〳〵)おこり時(とき)
々(〳〵)さし込(こみ)塞(ふさ)ぎ或(あるひ)は痞(つか)へ胸痛(けうつう)疝積(せんしやく)腰(こし)肩(かた)など
いたみ折々(をり〳〵)浮腫(ふしゆ)いたし気力(きりよく)快(こころよく)覚(おぼへ)候 義(ぎ)は半日(はんにち)もこれ
なく甚(はなはだ)肉脱(にくだつ)いたし常病人(じやうびやうにん)に候 得(へ)ば月々(つき〳〵)おびたゞし
く灸治(きうじ)いたし勿論(もちろん)数(す)人の医者(いしや)に懸(かゝ)り服薬(ふくやく)い
たし其外(そのほか)妙薬(めうやく)名灸(めうきう)亦(また)世間(せけん)にて信仰(しんかう)の神(かみ)仏(ほとけ)へ好(こう)