翻刻
【右丁】
得(へ)候 事(こと)は明日(めうにち)を待(ま)たず即時(そくじ)にあらはるべく候 心用(しんよう)
して御試(をんこゝろ)みあるべく候
一《割書:野老義》当年(とうねん)七十九 才(さい)に相なり候 然(しか)れども未(いま)だ目(め)
鑑(がね)を便(たよ)りにいたさず一日(いちにち)六七 里(り)の歩行(ほこう)は苦労(くらう)に
も不存(ぞんぜず)寒風(かんふう)炎暑(ゑんしよ)も難義(なんぎ)にも覚(おぼ)へず飲食(いんしよく)差(さし)
きらひ無(な)ければ一日も味(あじわ)ひ違(たが)はず口(くち)に合(あ)ひたる品(しな)
にても過(すご)さゞれば終(つい)に障(さわ)りたる義(ぎ)も無之(これなく)衣服(いふく)
諸具(しよぐ)とも美悪(びあく)を存(ぞん)ぜず候 得(へ)ば不 自由(じゆう)なく日々(にち〳〵)心地(こゝち)
能(よ)く中年(ちうねん)より還(かへつ)て丈夫(じやうぶ)に相 成(なり)此(この)老年(らうねん)に候へども元気(げんき)
衰(おとろ)へ候やうにも覚(おぼ)へ申さず元来(ぐわんらい)大病者(たいびやうしや)の愚昧(ぐまい)文盲(もんもう)
【左丁】
成(な)る《割書:野老》時節到来(じせつとうらい)いたし主人(しゆじん)の不 幸(さいわ)ひ我(わ)が幸(さいわ)
ひとなりて不計(はからず)御道徳(ごどうとく)の尊諭書(そんゆしよ)拝覧(はいらん)いたし
心底(しんてい)に徹(てつ)し候より心中(しんちう)変改(へんかい)し 即日(そくじつ)より朝暮(てうぼ)起臥(きぐわ)
真(しん)の養生(ようぜう)いたし猶(なを)又(また)時節到来(じせつとうらい)を得(へ)明師(めいし)に相見(そうけん)
し奉(たてまつ)り古今(ここん)天下之一大事(てんかのいちだいじ)野老(やらう)に具足(くそく)すと得心(とくしん)
いたし今日(こんにち)に至(いた)り候四十 余歳(よさい)の頃(ころ)まで病(や)み苦(くる)
しむも自心(じしん)の所作(しよさ)其(その)病苦(びやうく)を忘(わす)れ安体(あんたい)堅固(けんご)
と成(な)るも亦(また)是(これ)自心(じしん)苦患(くげん)も自心(じしん)安穏(あんをん)なるも自(じ)
心(しん)忠孝(ちうこう)も自心(じしん)不 忠(ちう)不 孝(こう)も自心(じしん)乱(みだ)るゝも自心(じしん)治(おさま)る
も自心(じしん)短命(たんめい)も自心(じしん)長寿(てうじゆ)保(たも)つも自心(じしん)善悪(ぜんあく)苦(く)