翻刻
【右丁】
ぬ事(こと)を能(よく)知(し)り詩(し)を作(つく)り文章(ぶんせう)など書(かく)を儒者(じゆしや)学者(がくしや)
と心得(こゝろへ)候は大ひなる誤(あやま)り成(な)るべく候 是(これ)は人(ひと)の為(ため)に学(まな)ぶ
小人(せうじん)の儒(じゆ)とやらんにて俗儒(ぞくじゆ)なるよし儒(じゆ)とは足(た)る事(こと)を
知(し)りて此身(このみ)を濡(うるを)す義(ぎ)なるべし我(わ)が心性(しんせう)を見得(けんとく)せ
ずして聖賢(せいけん)都(すべ)て有徳(うとく)の御心(をんこゝろ)見知(みし)る事(こと)難(かた)かるべく候
古徳(ことく)の御心(をんこゝろ)も知(しら)ず 書見(しよけん)候ても益(ゑき)なかるべく一字(いちじ)
一 句(く)も知(し)らざる文盲(もんもう)野人(やじん)にても自性(じせう)を見得(けんとく)いたし
候 得(へ)ば古徳(ことく)と別体(べつたい)成(な)らざる事(こと)を知得(ちとく)し身心(しん〳〵)安(あん)
穏(をん)にして自由(じゆう)なり博学(はくがく)多才(たさい)なりとも国家(こくか)諸人(しよにん)
の為(ため)ならでは何(なん)の益(ゑき)か有(あ)るべく愚昧(ぐまい)文盲(もんもう)成(な)る野老(やらう)
【左丁】
に候 得(へ)ども即今(そくこん)【左ルビ:たゞいま】示談(じだん)【左ルビ:しめしだんず】するを心用(しんよう)し守(まも)る人(ひと)は身(み)脩(おさま)り
一家(いつか)和合(わごう)し主従(しう〴〵)親子(をやこ)夫婦(ふうふ)兄弟(けうだい)云(い)ふべき一言(いちごん)無(な)
く他(た)に交(まじは)りても何(なに)か争(あら)そふ事(こと)なく皆(みな)我(わ)が非(ひ)を見(み)
て人(ひと)の非(ひ)を見(み)ず人の是(ぜ)を見(み)て我(わ)が是(ぜ)を見(み)ず
物(もの)に任(まか)せて我(われ)にまかせざれば自由自在(じゆうじざい)にして苦(く)
患(げん)有(あ)る事(こと)なし古徳(ことく)の明言(めいごん)明語(めいご)を拝聞(はいもん)し亦(また)見(けん)
読(とく)し覚(おぼ)へ知(し)るとも信用(しんよう)し守(まも)らざる時(とき)は何(なん)の益(ゑき)無(なけ)
れば既(すで)に聖人(せいじん)も従(したが)ふて改(あらた)めざるもの如何(いかん)とも仕(し)
がたきよし宣(のたま)ふと承(うけたまは)り候
一 古今(こゝん)貴(たうと)きとなく賤(いやし)きとなく僧俗(そうぞく)男女(なんによ)をいはず