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【右丁】
ら文盲(もんもう)無忽(ぶこつ)なれば何(なに)ほど実意(じつい)を尽(つく)し異見(いけん)致(いた)す
ともいさゝか聞入(きゝい)る体(てい)なければ右(みぎ)数人(すにん)の異見(いけん)教訓(けうくん)
も 八郎兵衛 所存(しよぞん)にて各(おの〳〵)頼(たの)み取(とり)はからふ段(だん)寄特(きどく)とや忠(ちう)
信(しん)とや申べき
一 然(しか)るに不日(ひあらず)学友(がくゆう)参(まいり)何角(なにか)咄合(はなしあ)ふ内(うち)風(ふ)と五常(ごじやう)の義(ぎ)を論(ろん)
じ《振り仮名:無_レ信不_レ立|しんなくばたゝず》仁(じん)義(ぎ)礼(れい)智(ち)も信(しん)之一 字(じ)信(しん)は是(これ)愨実(かくじつ)【注1】仏(ぶつ)
道(どう)には信心(しん〴〵) 神詠(しんゑい)にも。心たに信(まこと)の道(みち)にかなひなは
祈(いの)らすとても神(かみ)や守(まも)らむ。と宣(のたま)ひ只々(たゞ〳〵)信(しん)の一
字(じ)とたはむれ交(まじ)りに義論(ぎろん)し別(わか)れ つく〴〵 我(われ)
独(ひと)り存(ぞん)ずるには斯(かく)古(いにし)への聖(せい)神仏(しんぶつ)の教道(けうどう)教化(けうげ)みな
【左丁】
是(これ)信(しん)なり今(いま)我(われ)他(た)に向(むかつ)て信(しん)の一字(いちじ)と種々(しゆ〴〵)理(り)に理(り)を付(つけ)
て信(しん)を説(と)き信(しん)を云(い)ひ双(なら)ぶと云(い)へども皆(みな)学知(がくち)にて自(じ)
己(こ)いまだ信(しん)ならず唯(たゞ)信(しん)の道理(どうり)を知覚(ちかく)して他(た)へ口(こう)
外(ぐわい)するのみにて自心(じしん)信実(しんじつ)なければ日々(にち〳〵)朝夕(てうせき)身勝(みがつ)
手(て)のみにて古徳(ことく)の教意(けうい)にかなふ義(ぎ)一字(いちじ)も有(ある)べからず
聖賢(せいけん)書籍(しよじやく)数万巻(すまんぐわん)有(あ)りとも皆(みな)信(しん)の一字(いちじ)より出(いて)ざる
は無(な)くさあれば不 読(とく)不 習(しう)の文盲(もんもう)愚昧(ぐまい)の 八郎兵衛 我(われ)ら
よりは聖賢(せいけん)の御心(をんこゝろ)にかなひたる者(もの)ならむと 風(ふ)と心(こゝろ)
付(づ)けば 八郎兵衛 種々(しゆ〴〵)心配(しんはい)し心(こゝろ)を尽(つく)す実意(じつい)感入(かんにう)
しヶ程(ほど)にも主(しう)をおもふ心(こゝろ)ざし世間(せけん)稀(まれ)なる忠信(ちうしん)
【注1】愨 まこと・つつしむ