翻刻
【右丁】
き不 心行(しんげう)成(な)るは稀(まれ)なりと云(い)へども言行一致(げんこういつち)成(な)る学者(がくしや)
( ことばおこないひとつ)
亦(また)まれなれば朝暮(てうぼ)経伝(けいでん)の書中(しよちう)に起(を)き臥(ふ)し博学多(はくがくた)
才(さい)と云(い)へども言行一致(げんこういつち)ならざるは元(もと)是(これ)何(なに)が故(ゆへ)成(な)るぞ
言行(ことこう)を顧(かへり)み行言(こうこと)を顧(かへりみ)ば自己(じこ)恥(はづか)しからむ。道(みち)に古(こ)
今(こん)無(な)く凡聖(ぼんせう)不 二(に)賢愚(けんぐ)一致(いつち)也不 審(しん)有(あ)るべし恥(はじ)の
人に於(をけ)るこれより大(をう)ひ成(な)るは無(な)し
一 皆(みな)人 幼少(ようせう)の養育(よういく)に依(よつ)て実人(じつにん)とも不 実人(じつにん)とも成(な)り長(たて)【成長とかけている為ヵ】
ば士農工商(しのうこうせう)上下 貴賤(きせん)なく両親(りやうしん) 祖父(ちゝ)祖母(はゞ)或(ある)ひは
乳母(うば)聢(しか)と心得(こゝろへ)べき也 諺(ことわざ)に親(をや)ではなくて敵(かたき)かやと云(い)ふ
事(こと)愛(あい)におぼれ心(こゝろ)のまゝに育(そだて)成長(せいてう)し放埓(ほうらつ)我儘(わかまゝ)の
【左丁】
不 身行(しんげう)と成(な)り不 孝(こう)の名(な)付(つ)き其時(そのとき)にいたり親(をや)不 便(びん)に
思(おも)ひ教訓(けうくん)しきびしく折檻(せつかん)すとも聞入(きゝい)る事(こと)は扨(さて)を
き無慈悲(むじひ)の様(よう)こゝろへ却(かへつ)て親(をや)に恨(うら)みを含(ふく)む他之人(たのひと)異(い)
見(けん)教訓(けうくん)の深切(しんせつ)も皆(みな)己(をの)が不 勝手(かつて)なれば用(もち)ゆる場(ば)に至(いた)ら
ず行末(ゆくすへ)終(つゐ)に孤(みなしご)と成(な)り侮(あなど)られ心外(しんぐわい)に思(おも)ひ後悔(こうくわい)すと
云(い)へどもかへらず難義(なんぎ)し苦痛(くつう)の身(み)と成(な)るを云(い)ふ父(ちゝ)
不父(ちちたらざれば)子不子(ここたらず)と聖人(せいじん)も仰(をう)せ置(をか)れ亦(また)。可愛(かあい)とて育(はごく)み立(たて)
し古(いに)しへは世(よ)を背(そむ)くとも思(おも)わざりけり。と眼前(がんぜん)の愛(あい)
にほだされ生涯(せうがい)の大愛(たいあい)を知(し)らず よく試(こゝろみ)るべし
成長(せいてう)して放蕩(ほうとう)不 身行(しんげう)者(もの)とも成(な)らざるは大(をう)かたは
( みもち)