翻刻
【右丁】
内端(うちば)なる気性(きせう)にて病身(びやうしん)とも云(い)ふものなり世間(せけん)に出(で)ては
高声(かうしやう)にものをもいはず長敷(をとなしき)と見(み)られ家内(かない)にては短(たん)
慮(りよ)にてさゝいの事(こと)にも怒(いか)り物事(ものごと)せ話(わ)しく まてしば
しなく下人(げにん)を遣(つか)ひ肝症(かんせう)肝積(かんしやく)など名(な)を付(つ)く全(まつた)く気(き)
随(ずい)我(わが)まゝにて増長(ぞうてう)すれば狂気(きやうき)の如(ごと)く世間(せけん)にて肝症(かんしやう)
やみと云(い)ふ親(をや)の妄愛(もうあい)より自己(おのれ)と苦(くる)しみ命(いのち)をも縮(ちゞ)むる
なり上(かみ)主(しう)たる方(かた)にては下々(しも〳〵)の者(もの)刃上(はものゝうへ)に居(いる)が如(ごと)く心気(しんき)
安(やすん)ずる隙(ひま)なく下賤(げせんの)主人(しゆじん)にては妻子(さいし)召使(めしつか)ひに至(いた)り暫(ざん)
時(じ)安堵(あんど)の間(ま)なく心(こゝろ)を遣(つか)ひ家内(かない)一和(いつくわ)する時日(とき)しも無(な)
く終(つい)には短命(たんめい)す是(これ)全(まつた)く両親(りやうしん)眼前(がんぜん)の愛(あい)におぼれ
【左丁】
生涯(せうがい)の大愛(たいあい)をしらざる故(ゆへ)なり身(み)を正(たゞ)しく命(いのち)を全(まつた)ふ
せむとおもはゞ二六 時(じ)中(ちう)真(しん)の養生(ようじやう)すべし養生(ようじやう)は道心(どうしん)
にあり道心(とうしん)は志(こゝろざし)なり志(こゝろざし)たつ立(たゝ)ぬは親(をや)の養育(よういく)にあり
小愛(せうあい)大愛(たいあい)のさかひ能(よく)こころ得(へ)べし
一 道義(だうぎ)志(こゝろざし)立(た)つたゝぬは幼稚(ようち)【左ルビ:おさなき】の養育(よういく)にあれば親(おや)として
真実(しんじつ)愛(あい)をおもはゞ暑(しよ)をいとわず寒風(かんふう)を避(さ)けず善(ぜん)
悪(あく)邪正(じやせう)を正(たゞ)し 正善(しやうぜん)なるをば賞美(せうび)し邪悪(じやあく)成(な)る
をば急度(きつと)糾明(きうめい)し善友(ぜんゆう)に近(ちか)づき仮初(かりそめ)にも悪友(あくゆう)【左ルビ: とも】に
まじはらさず下人 小童(こわらは)小女(こをんな)遣(つか)ふとも無理(むり)無慈(むじ)
悲(ひ)なる事(こと)なくいたわりあはれませ用立(ようだつ)芸道(げいどう)をは