翻刻
【右丁】
聞(きゝ)しは稀(まれ)なり往昔(むかし)には女子はあまり手跡(しゆせき)は致(いた)さゞ
( をうむかし)
るなり何故(なにゆへ)なれば親(をや)に従(したが)ひ嫁(か)しては夫(をつと)に従がふ身(み)
なれば也 只(たゞ)貞正(ていせい)を心(こゝろ)の徳(とく)とし温順(をんじゆん)を美色(びしよく)とし
( うちやわらぐ)
静(しづか)に女子(によじ)を勤(つと)むるを美服(びふく)として直質(すなを)に 言(こと)
葉(ば)すくなく内端(うちば)なる是(これ)女の情(じやう)なり姿形(なりふり)も目立(めだゝ)
ず古風(こふう)に長敷(をとなしき)は奥(おく)ゆかしければ男子(なんし)も自然(しぜん)と
遠(とう)ざかり近付(ちかづか)ぬなり世間(せけん)の諺(ことわざ)に甘(あま)き物(もの)過(す)ぐ
れば疳(かん)生(せう)ずると言(い)ふ事(こと) 給(たべ)ものゝあまきにあらず
( かんのむし)
親(をや)の愛(あい)におぼれ善悪(ぜんあく)も正(たゞ)さず心(こゝろ)のまゝにさす
を甘(あま)きと云(い)ふにて夫(そ)れよりして気随(きずい)我儘(わがまゝ)の
【左丁】
疳(むし)生(せう)じて種々(しゆ〳〵)の病(やまひ)ものと成(な)るなり愛(あい)におほるゝも
また親(をや)の我(わ)が楽(たのし)み先立(さきだ)てば子(こ)の行末(ゆくすへ)もおもはざる
にて親(をや)の薄情(はくじやう)ならずや仮(かり)にも真愛(しんあい)大愛(たいあい)を思(おも)ふ
( まこととうすき)
べし
女子は万(よろづ)の芸(けい)に秀(ひい)づるとも貞心(ていしん)専(もつは)らになくば女(をんな)とは
云(い)ふべからず一芸(いちげい)なくとも直質(すなを)にして親(をや)夫(をつと)の心(こゝろ)を
以(もつて)我(わ)が心(こゝろ)とし物(もの)にまかせて我(われ)なく見聞(けんもん)の色(いろ)に
移(うつ)らざるを貞女(ていじよ)孝女(かうじよ)と云(い)ふ
◦我(わ)か軒(のき)に鶯(うぐひす)のなく梅(うめ)かほるいづちや人(ひと)の
はるや尋(たづ)ねそ