翻刻
【右丁】
一 聖人(せいじんの)曰 苗而(なへにして)《振り仮名:不_レ秀者有哉|ひいでざるものありや》。秀而不実者有哉(ひいでゝみのらざるものありや)。と 古(こ)
今(こん)賢愚(けんぐ)無(な)く同性(どうせう)同体(どうたい)にて一同(いちどう)信性(しんせい)を受得(じゆとく)したる
者(もの)なれは《振り仮名:不_レ秀|ひいでず》と云(い)ふ事(こと)なく 秀(ひいで)たれば《振り仮名:不_レ実|みのらず》と云(い)
ふ事(こと)有(ある)べからず若(も)し秀而(ひいでゝ)不実(みのらざれ)ば我(わ)が不 作(さく)なり
天(てん)をも人(ひと)をも恨(うら)むべからず
唯(たゞ)学(がく)不学(ふがく)に依(よ)らず上智(じやうち)下愚(かぐ)によらず発才(はつさい)無才(むさい)
( はつめい ぶこつ)
利鈍(りどん)男女(なんによ)に依(よ)らず只(たゞ)志(こゝろざし)の厚薄(こうはく)浅深(せんしん)に依(よ)るのみ
( りこうにぶき)
古徳云(ことくのいわく)至理(しり)絶言(ぜつごん)教(おしへ)は是(これ)言詞(げんし)実(じつ)に《振り仮名:不_二是道_一|これみちならず》道(みち)
( いたるみちことばをたゆ) ( ことば)
本(もと)無言(むごん)言説(ごんぜつ)是(こ)れ妄(もふ)なりと。言外(ごんぐわい)也 教外(けうげ)也一 法(ほう)の
( ことばなし) ( ことばは) ( みだり)
人(ひと)に与(あたふ)る無(な)しと。必(かな)らず学(がく)不 学(がく)の知(し)る所(ところ)にあらず
【左丁】
老拙 妄迷(もうめい)よりして危(あやう)きに臨(のぞ)み年来(ねんらい)労(らう)して功(こう)無(な)く
益(ゑき)なき事を後世(こうせい)に伝通(でんつう)し知(し)らしめんと同意(どうい)の
義(ぎ)を幾度(いくたび)となく書記(しよき)す労屈(らうくつ)の野生(やせい)なれば始(はじ)
め書(か)ける事(こと)も後(のち)に忘(わす)れ前(まへ)にいだしたる事を又(また)
末(すへ)にのぶる類(るい)間々(まゝ)有(あ)るべく重言(ぢうげん)誤言(ごげん)誤字(ごじ)文(ぶん)
のつたなき等(とう)心に寄(よ)せず只(たゞ)自己(じこ)の一大(いちだい)事と思
ひ取(とつ)て聊(いさ)か頭(かしら)を振(ふ)らず 自心(こゝろ)に求(もと)めて直(ぢき)に見(み)信(しん)
修(じゆ)あらば月日(つきひ)を《振り仮名:不_レ積|つまず》真楽(しんらく)を得(へ)む事 疑(うたが)ひ有(あ)る
べからず生(せい)をやしなふ最(さい)第一(だいいち)是(これ)也(なり)
一大事(いちたいじ)遺書(ゆいしよ)