翻刻
【右丁】
一此(こ)の身(み)の大事(だいじ)を思(おも)はゞ即今(そくこん)真(しん)の養生(ようぜう)を為(なす)べし真(しん)の
( たゞいま)
養生(ようぜう)を為(せ)むとおもはゞ即今(そくこん)安心快楽(あんじんけらく)を得(う)べし安心(あんじん)
( こゝろよくたのしむ)
快楽(けらく)を得(へ)むと思(おも)はゞ即今(そくこん)足(た)る事(こと)を知(し)るべし足(た)る事(こと)
を知(し)らむとおもはゞ即今(そくこん)我(われ)と万宝(ばんほう)何(いづれ)か重(おも)き何(いづ)れ
( たから)
か軽(かろ)き軽重(けいぢう)を知(し)るべし軽重(けいぢう)を知(し)らむと思はゞ即(そく)
今(こん)欲色(よくいろ)名利(めうり)を去(さ)るべし 欲色(よくいろ)名利(めうり)を去(さ)らむと思(おも)は
ば即今(そくこん)我(わ)が此(こ)の四大色身(しだいしきしん)。夢(む)。幻(げん)。泡(ほう)。影(やう)にて有(ある)に
( ゆめ まぼろし あわ かげ)
似(に)て元来(ぐわんらい)我(われ)無(な)き事(こと)を知るべし我(わ)が此(この)色身(しきしん) 夢。(む)幻(げん)
。泡(ほう)。影(やう)。なる事(こと)を知(し)らむと思(おも)はゞ即今(そくこん)善悪(ぜんあく)の思慮(しりよ)
( よしあし)
分別(ふんべつ)を去(さ)るべし思慮(しりよ)分別(ふんべつ)を去(さ)らむとおもはゞ即(そく)
【左丁】
今(こん)朝夕(てうせき)立居(たちい)起臥(きぐわ)に起(おこ)る念(ねん)の源(みなもと)を見(み)るべし念(ねん)の源
を見(み)むと思(おも)はゞ即今(そくこん)我(わ)が一心(いつしん)の姿(すがた)を知(し)るべし一心の
姿(すがた)は是(これ)世界(せかい)の姿(すがた)なり此(この)姿(すがた)を自知(じち)せむとおもはゞ即(そく)
今(こん)生死(せうし)事大 無常(むじやう)迅速(じんそく)の一句(いつく)擬議(ぎゝ)無く直(すぐ)に聞(きゝ)
( あてがいはかる)
直(すぐ)に見(み)只(たゞ)是(これ)生死(せうし)事大 無常(むじやう)迅速(じんそく)貴賤(きせん)男女一大
事 是(これ)なり経(けう)に云(いわく)知幻(ちげん)即(そく)敵(てき)無作方便(むさほうべん)。と もろ〳〵の
( まぼろしをしるすなはちてきすほうべんをなさず)
相(そう)は皆(みな)是(これ)幻(まぼろし)にして実(じつ)無(な)し凡聖(ぼんしやう)賢愚(けんぐ)なを是(これ)水(すい)
中(ちう)の影像(やうぞう)影(かげ)を留(とめ)て実(じつ)とするは自心(じしん)を見(み)ざる故(ゆへ)
( かげ)
なり《振り仮名:有_レ善有_レ悪|ぜんありあくある》心(こゝろ)の動(どう)《振り仮名:無_レ善無_レ悪|ぜんなくあくなき》心之体(こゝろのたい)賤(いやし)むべ
き無(な)ければ尊(たう)とむべき無(な)く悪(あく)無(な)ければ善(ぜん)無(な)く