翻刻
【右丁】
嬉悲(きひ)なければ苦楽(くらく)無(な)し是(これ)心 気(き)を養(やしな)ふ良薬(りやうやく)二
( うれしかなし)
六 時中(じちう)真(しん)の養生(ようぜう)是(これ)なり後時(かうじ)を待(ま)たずいそ
( のち)
ぐべし如何(いか)なるか是(これ)自心(しゝん)の姿(すがた)生死(せうし)事大(じたい)無常(むじやう)
迅速(じんそく)
子々孫々(しゝそん〴〵)《割書:江》遺書(ゆいしよ)
神仏(しんぶつ)聖賢(せいけん)都(すべ)て古徳(ことく)の書籍(しよぢやく)其(その)数(かず)を知(し)らざれども只(たゞ)
己(おのれ)を脩(をさ)め人を治(おさ)むるの外(ほか)他事(たじ)無(な)し然(しか)るに老拙 嫡子(ちやくし)
に生(うま)れ数多(あまた)の兄弟(けうだい)皆々(みな〳〵)女子(をんな)なれば祖父(ぢゞ)祖母(ばゞ)両親(りょうしん)
格別(かくべつ)の慈愛(じあい)に預(あづか)り我(われ)知らず気随(きすい)我(わが)まゝに育(そだち)
若(じやく)年の頃(ころ)より心の儘(まゝ)の放蕩(ほうとう)不 身行(みもち)の段々(だん〳〵)言語(ごんご)
【左丁】
に絶(ぜつ)し難(かた)き事(こと)どものみ中年(ちうねん)に及(およ)び色念(しきねん)に犯(をか)され
既(すで)に一命(いちめい)も危(あやう)きにのぞみ時節(じせつ)を得(へ)禅師(ぜんし)の慈恵(じゑ)を
蒙(かうむ)り聊(いさゝか)発明(はつめい)いたし前非(ぜんひ)を悔(く)ひ後悔(こうくわい)いたせども
甲斐(かひ)なく士家(さむらひ)は云(い)ふに及(およ)ばず農工商(のうこうしやう)のもの子供(こども)
養育方(よういくかた)尤(もつとも)大切(たいせつ)なり 人として信志(まことのこゝろざし)なき時(とき)は生涯(せうがい)
知足(たることをしる)の期(ご)なし日々(にち〳〵)名師(めいし)道師(どうし)之(の)教示(おしへ)を受(うけ)朝夕(てうせき)
相見(そうけん)すとも志(こゝろざし)なきは手段(しゆだん)なく志(こゝろざし)とは信(まこと)也 人(ひと)とし
て実意(じつい)無(な)く志(こゝろざし)なきは全(まつた)く養育(よういく)の不 実(じつ)にあり
故(ゆへ)に書(しよ)に云(いわ)く里(さと)は仁(じん)を美(び)とす 撰(ゑら)んで仁(じん)に処(をら)
ずんばいづくんぞ智(ち)を得(へ)むと古(いに)しへ大身(たいしん)大禄(たいろく)