翻刻
【右丁】
我等(われら)儀(ぎ)殊(こと)に多病(たびやう)に候 得(へ)ば是(これ)を自得(じとく)せむ事(こと)難(かた)かる
べく如何(いかん)
答 道(みち)は難(かた)きに似(に)て易(やす)く安(やす)きに似(に)てかたし只(たゞ)道心(どうしん)
の深(ふか)き浅(あさ)き志(こゝろざし)の厚(あつ)き薄(うす)きのかわり有(ある)のみ教(をしへ)を直(ぢき)
に疑(うた)がはず信(しん)ずれば安(やす)く道(みち)を成(じやう)ず不 信(しん)なれば転(てん)
倒(どう)し外道(げどう)をめぐり長(なが)く苦(くるし)みに沈(しづ)むされば一代(いちだい)
蔵経(ぞうけう)自心即仏(じしんそくぶつ)なる事(こと)を説(と)きたまひ自心(じしん)の仏(ほとけ)を
尋(たづ)ぬるを座禅(ざぜん)と云(い)ふ 神道(しんとう)儒道(じゆどう)には是(これ)を安座(あんざ)静(せい)
座(ざ)と云(い)ふ也 経論(きやうろん)委(くわし)く覚(おぼ)へ知(し)ると云(い)へども爰(こゝ)に於(おひ)
ては一字(いちじ)をつかゑず博学(はくがく)多才(たさい)還(かへつ)て道義(どうぎ)の障(さわ)りと
【左丁】
成(な)るなり教意(けうい)は只(たゞ)心体(しんたい)を顕(あら)はさんが為(ため)也 本心(ほんしん)だに了(りやう)
知(ち)せば何(なん)ぞ経論(けうろんを)用(もち)ひむ文字(もんじ)言句(ごんく)皆(みな)心(こゝろ)の病(やま)ひと成(な)
る古徳(ことくの)云(いわく)学(がく)を為(す)れば益(ま)す道(みち)を為(す)れば損(そん)すと
( へる)
志(こゝろざし)ある道人(どうじん)は古(こ)人の糟粕(そうはく)をなめず幸(さいわ)ひに不 学(がく)
( かす)
文盲(もんもう)なるは道(みち)に入(い)るの便(たより)也 亦(また)道(みち)に志(こゝろざし)あるものは悪衣(あくい)
悪食(あくしよく)を恥(は)ぢずと住所(じうしよ)衣食(いしよく)を思(おも)わず 大慈悲心(だいじひしん)を
発(おこ)し世間(せけん)の助(たす)けとならむ事(こと)を深(ふか)く思(おも)ひ我(わ)が身(み)一つ
の為(ため)に道(みち)を求(もと)めず只(たゞ)二六 時中(じちう)心(こゝろ)を気海丹田(きかいたんでん)【注1】に治(おさ)
め大事(だいじ)を聞(きひ)て小事(せうじ)を聞(き)かず立居(たちい)起臥(きぐわ)飲食(いんしよく)の間(ま)
も怠(おこた)らず如何(いか)成(な)るか是(これ)自心(じしん)如何(いか)なるか是(これ)本来(ほんらいの)面(めん)
【注1 漢方医学 へその下 禅僧白隠によると気力が湧き病が消える場所】