翻刻
【右丁】
て分別(ふんべつ)思慮(しりよ)を以(もつ)てよくせんと思(おも)はゞ沙(いさご)をむして飯(はん)と
成(な)さんとするが如(ごと)し千載(せんざい)を経(ふ)るとも成就(じやうじゆ)すべか
らず儒家(じゆか)にて要書(ようしよ)は大学(だいがく)中庸(ちうよう)弐巻(にさつ)なり皆(みな)自(をの)
己(れ)に求(もとめ)て工夫(くふう)を成(な)し私知(しち)に染(そま)ざる不顕(ふげん)の至徳(しとく)を
( あらわれず)
了知(りやうち)し充(みた)しめよとの尊教(そんけう)也 至徳(しとく)は至心(ししん)也 直心(じきしん)也
( さとりしる)
たとへ一切(いつさいの)経書(けいしよ)を諳(そらん)じ聖人(せいじん)の行跡(げうせき)をうつすと云(い)へ
ども聖意(せいい)を自得(じとく)せざれば一 句(く)一 言(ごん)も真意(しんい)を得(う)る
( せい人のこゝろ)
事(こと)あたはず神儒(しんじゆ)仏老(ぶつらう)の諸書(しよしよ)皆(みな)是(これ)心性(しんせい)を自得(じとく)
( みづからうる)
させむとの道器(どうき)にて文(ぶん)は跡(あと)有(あ)りと云(い)へども道(みち)は跡(あと)
( みちうつわ)
なく形(かたち)なし《振り仮名:以_レ言不_レ可_レ宣|ことをもつてのぶべからず》。と 言外(ごんぐわい)教外(けうげ)一 字(じ)一 句(く)を
【左丁】
借(か)らざればまた難(かた)ふして易(やす)く安(やす)ふして難(かた)し急々(きう〳〵)
自心(じしん)に向(むかつ)て見聞(けんもん)覚知(かくち)手(て)を挙(あげ)足(あし)をはたらくは何(なに)
ものゝ所為(しよい)か暫時(ざんじ)免(ゆる)さず是(これ)を見究(けんきう)すべし我(わ)が
( みきわめ)
一大 事(じ)是(これ)なり常(つね)に心気(しんき)を臍下(さいか)に治(おさ)め立居(たちい)起(き)
臥(ぐわ)行歩(ほこう)飲食(いんしょく)の間(ま)も打 置(をか)ず如何成(いかなる)か是(これ)見聞(けんもん)覚知(かくち)の
( あるく)
主(あるじ)と疑(うたが)ひ探(さぐ)るを不断座禅(ふだんざぜん)動中座禅(どうちうざぜん)と云(い)ふなり
( うごくうちざせん)
広学(くわうがく)多才(たさい)と云(い)へども信心力(しん〴〵りき)無(な)きもの決定(けつでう)せむこと
及(およ)ばす文盲(もんもう)無忽(ぶこつ)にて信力(しんりき)強(つよ)きもの決定(けつじやう)した
る徒(ともがら)多(おう)ければ難(かた)からず安(やす)からざる也 我(わ)が此(この)身(しん)
( からだ)
体(たい)見聞(みきゝ)言語(ものいふ)何(なに)ものゝ所為(しよい)成(なる)ぞ急々(きう〳〵)一 決(けつ)すべし