翻刻
【右丁】
若(もし)亦(また)根気(こんき)柔弱(ぢうじやく)にして時節(じせつ)因縁(いんゑん)来(きた)らず決定(けつでう)い
たし難(かた)くとも此(この)志(こゝろざし)怠慢(たいまん)なくばいつしか我(われ)を忘(わす)れ
( おこたりみだり)
苦楽(くらく)の外所(よそ)に遊行(ゆふこう)し老(らう)を忘(わす)れて寿(じゆ)を保(たも)つべし
( をい)
素(もと)より此(この)身(み)生(せう)ずる時(とき)来所(らいしよ)なく死るとも実去所(じつきよしよ)
なく万々歳(まん〳〵ざい)を経(ふ)るとも増減(ましへり)無(な)し万物(ばんぶつ)一体(いつたい)平等(べうどう)
之(の)直心(ぢきしん)生死(せうし)無(な)ければ往来(ゆきゝ)無(な)し安堵(あんど)すべし不 老(らう)
不死(ふし)之(の)良薬(りやうやく)是(これ)也うたがふ事(こと)勿(なか)れ
◦道志之者(どうしのもの)へ物語(ものがたり)《割書:付》問答(もんどう)
一 玉殿(ぎよくでん)楼閣(ろうかく)に起(おき)ふし羽二重(はぶたへ)綾錦(あやにしき)をまとひ山海(さんかい)の
珍味(ちんみ)に飽(あ)くはかならず命(いのち)を縮(ちゞ)むる者(もの)なり心得(こゝろへ)べし。
【左丁】
と侍座(じざ)の者(もの)問(と)ひける
問 是(これ)は衣食住(いしよくじう)之(の)美(び)也 何(なん)が故(ゆへ)命(いのち)を縮(ちゞ)む哉(や)
答 衣食住(いしよくじう)之(の)美(ひ)には必(かな)らず添(そ)ふ物(もの)三ッ女色(じよしよく)。酒(さけ)。念慮(ねんりよ)。
是(これ)のみならず厚味(かうみ)なるを食(しよく)し身体(しんたい)動(うご)きはたらくこ
と稀(まれ)なれば飲食(いんしよく)とも和(くわ)せず色酒(いろさけ)にて内 虚(きよ)し損(そん)じ
念慮(ねんりよ)は妄想(もうぞう)也 色酒(いろさけ)も妄想(もうぞう)より起(おこ)り身(み)の害(がい)と成(な)る
事(こと)をしらず眼前(がんぜん)心地(こゝち)能(よ)きに覆(おふ)はれ命(いのち)を縮(ちゞ)む
と恥辱(ちじよく)と損恥(そんち)の二ッ有(あ)る事(こと)を知(し)らず是(これ)皆(みな)妄想(もうぞう)
の作(な)す所(ところ)にて身敵(みのかたき)也 古人云(こじんのいはく)身体(しんたい)労(らう)すれば善心(ぜんしん)
生(せう)じ身体(しんたい)逸(いつ)すれば悪心(あくしん)生(せう)ずと 身上(しんせう)足(た)れば心上(しんせう)足(た)
( ほしいまゝ みのうへ こころ )