翻刻
【右丁】
らず
問 然(しか)らは女色(じよしよく)酒(さけ)を断(た)ち思慮分別(しりよふんべつ)の念(ねん)絶(ぜつ)せむ事(こと)如何(いかん)
答 是亦(これまた)三ッに非(あら)ず色(いろ)酒(さけ)も思慮(しりよ)妄念(もふねん)より起(おこ)ればたゞ執(しう)
着(じやく)を忌(い)む着念(ぢやくねん)無(な)き時(とき)は科(とが)なし着(ぢやく)不 着(ぢやく)過(くわ)不 足(そく)わ
れ独(ひと)り是(これ)を知(し)る《振り仮名:苦楽無_レ主 従_二分別_一起|くらくしゆなし ふんべつよりおこ》る好嫌(すきゝらい)皆(みな)身(しん)
愛(あい)より起(おこ)りて身(み)を破(やぶ)る。夏(なつ)の虫(むし)の燈火(ともしび)を愛(あい)し淵(ふち)の
魚(うを)の餌(ゑ)を貪(むさぼり)りて命(いのち)を失(うし)なふに似(に)たり我(わ)が好(す)く所(ところ)
の執念(しうねん)より起(おこ)る是(これ)を妄念(もふねん)妄想(もふぞう)と云(い)ふ皆(みな)人 苦悩(くのう)苦(く)
患(げん)絶(た)へざるは妄想(もふぞう)の所作(しよさ)也 即今(そくこん)此(この)妄想(もうぞふ)何(いづ)れより起(おこ)り
何(いづ)れに去るや我(わ)が心源(しんげん)に向(むか)ひ急々(きう〳〵)見究(けんきう)すべし此(この)妄(もふ)
( み)
【左丁】
想(そう)の源(みなもと)を見得(けんとく)せば望(のぞ)み好(この)む所(ところ)の諸願(しよぐわん)の数条(すうでう)即時(そくじ)心(こゝろ)
( みうる)
のまゝ成(な)るべく後時(ごじ)後刻(ごこく)をいはず即今(そくこん)起(おこ)り去(さ)る心(しん)
念(ねん)の源(みなもと)を見極(みきわめ)よ此(この)源(みなもと)を見究(みきはめ)ずして心(こゝろ)のまゝの快(け)
楽(らく)を願(ねが)ふは無得(むとく)無能(むのう)にして官禄(くはんろく)を望(のぞ)むが如(ごと)し
我(わが)心源(しんげん)を一 決(けつ)せば雑念(ぞうねん)即時(そくじ)に消失(しやうしつ)して自由(じゆう)自(じ)
( きへうせ)
在(ざい)こゝろの儘(まゝ)なる大安楽(だいあんらく)を得(う)べし片時(へんじ)も免(ゆる)さず信(しん)
( かたとき)
力(りき)堅固(けんご)にして一 決(けつ)せよ是(これ)真(しん)の養生(ようぜう)《振り仮名:可_レ為_レ最上|さいぜうたるべし》
一 禅家語録(ぜんけごろく)法語(ほうご)などを見(み)古則(こそく)公案(こうあん)など推量(すいりやう)私(し)
解(げ)して修多羅(しゆたら)【注1】の教(けう)は月(つき)をさす指(ゆび)祖師(そし)の言句(ごんく)は門(もん)
( をしへ)
をたゝく瓦(かはら)子なりとて悟道(ごどう)発明(はつめい)して祖仏(そぶつ)をも
【注1 仏教の経典】