翻刻
【右丁】
せむとおもはゞ二六 時中(しちう)暫時(ざんじ)もさしおかず信力(しんりき)勇(いう)
猛(もう)の志(こゝろざし)を励(はげま)し我(わ)が心源(しんげん)に向(むかつ)て時々(じゝ)刻々(こく〳〵)起滅(きめつ)す
る所(ところ)の心念(しんねん)何(いづ)れの所(ところ)よりおこり何(いづ)れの所(ところ)にか去(さ)ると
起臥(きぐわ)立居(たちい)言語(げんぎよ)飲食(いんしよく)の間(ま)もうち置(をか)ず一 切(さい)事(こと)
を成(な)さむ時(とき)眼(まなこ)をつけて極(きわ)め見(み)るべし是(これ)直指(ぢきし)の
近道(ちかみち)何(いづ)れの道(みち)歟(か)是(これ)に勝(まさ)らむや智愚(ちぐ)学(がく)不 学(がく)
( をしへ)
をいはず此(この)念(ねん)に犯(をか)され有相(うそう)に着(ぢやく)し生死(せうし)に流(る)
転(てん)し苦悩(くのふ)絶間(たへま)無(な)く此(この)起源(きげん)を了知(りやうち)せば生死(せうし)を
( さとり)
截断(さいだん)【注1】して去来(きよらい)無(な)く生滅(せうめつ)無(な)く是非(ぜひ)邪正(じやせう)一 時(じ)に破(は)
却(きやく)して安穏(あんをん)快楽(けらく)成(な)るべく真(しん)の養生(よふぜう)最上薬(さいぜうやく)こ
【左丁】
れなり。「いづるとも入(い)るとも月をおもはねは
心(こゝろ)にかゝる山の端(は)もなし
一 田舎(でんじや)辺鄙(へんひ)は飲食(いんしよく)とも厚味(かうみ)の物(もの)なく麤食(そじき)麤菜(そさい)
なれば飽食(ほうしょく)飽酒せず夫(それ)のみならず野田(のでん)山 畠(はた)稼(かせ)ぎ
( あく)
働(はたら)き強(つよ)ければ消(き)へ安(やす)き麤食(しじき)麤菜(そさい)なを和(くは)し女(をんな)
有(あれ)ども妻女(さいじよ)のみにて自由(じゆう)ならざれば女色(じよしよく)におぼるほ
どの義(ぎ)絶(たへ)てなく名聞(めうもん)名利(めうり)も知(し)らざれば有(あり)のまゝ
にて物(もの)に着(じやく)する事(こと)なければ常(つね)に心気(しんき)を悩(なや)み遣(つか)
ふ事(こと)なく安堵(あんど)も願(ねが)はず安心(あんしん)も好(この)まずしてひと
り安気(あんき)也 勿論(もちろん)苦(くる)しとおもふ心(こゝろ)なければ楽(らく)を願(ねが)ふ
【注1 截 本来セツ 慣用読み】