翻刻
【右丁】
書類(しよるい)もさし置(を)き我(わ)が昼夜(ちうや)出入(いでいる)呼吸数(こきうすふ)算(かぞ)へ知(し)るべし
( いきのかず)
難経(なんけう)にあらはし有(ある)所(ところ)の員数(いんじゆ)に一 息(そく)もたがわざる事(こと)
( か ず) ( いき)
を自知(じち)する時(とき)医之術(いのじゆつ)を得(う)る也 是(これ)を得(へ)て望(ぼう)聞(もん)問(もん)切(せつ)
( みづからしる)
の四知(しち)をもつて病症(びやうせう)を察(さつ)し湯(とう)は蕩(とう)也 散(さん)は散(さん)也 丸(ぐはん)は寛(くはん)
成(な)るの主剤(しゆざい)をもつて病者(びやうじや)に与(あた)ふ時(とき)は十人は十人百人は
百人 的中(てきちう)せずと云(い)ふ事(こと)無(な)し衆病(しうびやう)を療(りやう)ずる事(こと)塵(ぢん)
( もろ〳〵 ちり)
芥(かい)をひらふが如(ごと)く禽獣(きんぢう)鳥魚(てうぎよ)に至(いた)るまで悩(なや)みを助(たす)
( あくた)
けずと云(い)ふ事(こと)なし是(これ)仁術(じんじゆつ)也 昼夜(ちうや)寒暑(かんしよ)遠近(ゑんきん)も忘(わす)れ
上下 貴賤(きせん)貧富(ひんふ)男(なん)女も忘却(ぼうきやく)して只(たゞ)病苦(びやうく)を救(すく)はむ事
を思(おも)ふのみ余念(よねん)無(な)きは是(これ)意之医(いのい)也 聊(いさゝか)も私(わたくし)の思ひ有(あ)
【左丁】
らは利(り)のみにして物(もの)無(な)し只(たゞ)自身(じしん)を療(りやう)ずべし 自(じ)
( わが)
己(こ)を治(おさ)めずして他(た)を治(おさ)めむ事(こと)古今(ここん)曾(かつ)て聞(き)か
(み) ( ひと)
ず 《割書:大医曰》当 ̄ニ【左ルビ:シ】_三安_レ神 ̄ヲ定 ̄メ_レ志 ̄ヲ無_レ欲 ̄ルコト無_レ求 ̄ルコト発 ̄ス_二大-慈惻-隠之心 ̄ヲ_一《割書:云々》【注1】
一 高下(かうげ)貴賤(きせん)なく一 夫(ふ)一 妻(さい)は天(てん)の免(めん)ずる所(ところ)にて世間(せけん)の定(ぢやう)
道(どう)と云(い)へども交(まじ)はるに過(くは)不 過(くは)有(あり)て足(た)らざるは身(み)の養(やしな)
ひ過(すぐ)るは色欲(しきよく)にて身(み)を削(けづ)り命(いのち)を縮(ちゞ)む亦(また)定道(ぢやうどう)と云(い)
へども其中(そのなか)に人身(じんしん)に強弱(きやうじやく)あり土地(とち)に旱所(かんしょ)水場(すいば)有(ある)
( かわきち みづば)
如(ごと)く湧水(ゆすい)に多少(たせう)あれば只(たゞ)節(せつ)を自知(じち)して交(まじ)はる
( ほどよき)
是(これ)身(み)の大事(だいじ)を知(し)る也 亦(また)外婦(ぐわいふ)を好(この)むは婬乱(いんらん)にて
身(み)を削(けづ)るのみならず夫婦(ふうふ)の情合(じやうあい)薄(うす)くなれば一家(いつか)
【注1】 医心方 最古(平安期)の医学書