翻刻
【右丁】
色欲(しきよく)。酒欲(しゆよく)。欲心(よくしん)。婬欲(いんよく)は身(み)を削(けづ)り内傷(ないしやう)虚(きよ)
す過酒(くわしゆ)は内(うち)を破損(はそん)し毒(どく)に中(あた)り臓腑(ぞうふ)腐損(ふそん)す
( くさる)
欲心(よくしん)は心底(しんてい)に安堵(あんど)を得(う)る時日(じじつ)なければ持病(ぢびやう)を発(はつ)
し或(あるひ)は労疫(らうゑき)す是(これ)を除(のぞ)き去(さ)らむとおもはゞ即今(そくこん)
此身(このみ)一大事(いちだいじ)をわきまふべし智(ち)と愚(ぐ)は水(みず)と氷(こうり)と
の如(ごと)し氷(こうり)にて有(あ)る時(とき)は石(いし)瓦(かはら)のごとくにて自在(じざい)成(な)
らず色欲(しきよく)過酒(くわしゆ)欲心(よくしん)も我(わ)がよきとは思(おも)わざれども
好(す)く所(ところ)の一念(いちねん)愚妄(ぐもふ)の氷(こうり)に閉(とぢ)られ自由(じゆふ)ならざるが如(ごと)
しとくれば本(もと)の智水(ちすい)にてものにしたがひとゞ
こふる事(こと)なし惑(まど)ふときは氷(こうり)の如(ごと)し了知(りやうち)すれば
( さとり)
【左丁】
本(もと)の直心(ぢきしん)妙体(めうたい)なり氷(こふり)に水(みず)とならざる氷(こふり)なければこゝを
以(もつ)てよく弁知(べんち)し暫時(ざんじ)外事(ぐわいじ)を指置(さしをき)て我(わ)が心念(しんねん)
( わきまへしり)
の起(をこ)る源(みなもと)を見(み)るべし影(かげ)に惑(まど)へるものは形(かたち)を見(み)るに如(しか)
ず何(なに)ものか色(いろ)を好(この)み何(なに)ものか酒(さけ)を好(す)き何(なに)ものか欲(よく)
心(しん)なる只(たゞ)是(これ)水(みず)と氷(こふり)氷(こふり)は命(いのち)を閉(とぢ)縮(ちゞ)む悪毒(あくどく)。水(みず)は流(なが)
れて跡(あと)なく尽(つ)きず自在(じざい)の良薬(りやうやく)
道人(どうじん)は身苦(しんく)をいとはず 心苦(しんく)をいとふ
( みのく) ( こゝろのく)
世人(せじん)は心苦(しんく)をいとはず 身苦(しんく)をいとふ
( こゝろのく) ( みのく)
道人は身労(しんろう)して心楽(しんらく)を ねがふ
( みをつかふ) ( こゝろのたのしみ)
世人は心労(しんらう)して身楽(しんらく)を ねがふ
( こゝろつかふ) ( みのたのしみ)