翻刻
【右丁】
計(ばか)りも隔(へだて)なければ祖(そ)も伝(つた)へたまはずと譬(たとへ)ば峯(みね)とひら地(ち)
との如(ごと)し高(たか)き卑(ひき)きの名(な)は各別(かくべつ)なりと云(い)へども土(つち)の性(せう)は全(まつた)
く一ッ成(な)るが如(ごと)し只(たゞ)生(せう)と不 生(せう)と衆生(しゆぜう)悟(さと)れば其儘(そのまゝ)仏(ほとけ)也 仏(ぶつ)
衆生(しゆぜう)不 二(に)の心性(しんせい)迷悟(めいご)己(おの)が知(し)る所(ところ)にして(た)他にあづからざ
るなり
一 偶々(たま〳〵)志(こゝろざし)有(あ)る人(ひと)皆(みな)工夫(くふう)を成(な)す理(り)有(あ)る事(こと)をしらず終(つひ)に
一生(いつせう)空敷(むなしく)すごす深(ふか)く工夫(くふう)を成(な)す理(り)を尋(たづ)ぬればた
だ此(この)信(しん)の一 字(じ)也 生死(せうし)事大(じだい)無常(むじやう)迅速(じんそく)の八字(はちじ)を深(ふか)
く信(しん)じ二六 時中(じちう)如何(いか)成るか是(これ)自心(じしん)と念々(ねん〳〵)に暫時(ざんじ)
も心(こゝろ)を放(はな)たず工夫(くふう)すべしたとへば檜(ひのき)の如(ごと)し檜(ひのき)の中(なか)に
【左丁】
火(ひ)有(あ)り火(ひ)檜(ひのき)をはなれず檜(ひのき)火(ひ)をはなれず然(しか)るに檜(ひのき)の
中(なか)より火(ひ)出(いで)て還(かへつ)て檜(ひのき)を焼(や)き檜(ひのき)よく火(ひ)と成(な)る一切(いつさい)衆(しゆ)
生(ぜう)の身中(みのなか)に仏性(ぶつせう)有(あ)り仏性(ぶつせう)衆生(しゆぜう)をはなれず衆生(しゆしやう)
仏性(ぶつせう)をはなれず一切(いつさい)衆生(しゆぜう)の身中(みのうち)より仏性(ぶつせう)出(いで)て還而(かへつて)
衆生(しゆぜう)煩悩(ぼんのふ)の林中(りんちう)を焼(や)きつくし衆生(しゆぜう)能(よく)仏(ほとけ)と成(な)る也
心(こゝろ)即(すなはち)仏(ほとけ)なり心(こゝろ)の外(ほか)に仏(ほとけ)ましまさず此(この)故(ゆへ)に一心(いつしん)を知(し)
るを如実修行(によじつしゆげう)と名付(なづ)く壁(かべ)に向(む)き目(め)を閉(とぢ)喧(かまびす)し
きを避(さ)け寂(しづか)なるを求(もと)むるにあらず道義(どうぎ)は他(た)人より
得(へ)ぬものと深(ふか)く信(しん)じ尊(たつとま)ば譬(たと)ひ祖仏(ぶつそ)目前(もくぜん)に現(げん)
じ禅道(ぜんどう)仏法(ぶつほう)を以(もつ)て我(わ)が胸中(けうちう)にかたむけ入(い)るゝとも