翻刻
【右丁】
道(みち)は跡(あと)なく形(かたち)無(な)し 目前(もくぜん)ながらあらはれず
信心(しん〴〵)不 二の(に)眼(まなこ)以(も)て 見(み)れば闇(やみ)にも明(あき)らけく
秘事(ひじ)は眉毛(まつげ)と聞(きく)からは 難(かた)きが中(なか)にまた易(やす)し
無量(むりやう)の宝珠(ほうじゆ)求(もと)めずも 此(この)身(み)一ッに充(みち)満(み)つる
凡愚(ぼんぐ)素(もと)より聖者(せうじや)なり 水(みず)と波(なみ)との如(ごと)くにて
水(みず)を離(はな)れて波(なみ)も無(な)く 凡愚(ぼんぐ)の外(ほか)に聖者(せうじや)無(な)し
道(みち)の近(ちか)きをしらずして 遠(とふ)きを尋(たづ)ぬ愚夫(ぐふ)鈍婦(どんぶ)
譬(たと)へば飯櫃(はんき)の中(なか)に居(い)て 飯(はん)を尋(たづ)ぬる如(ごと)くなり
( めしびつ)
富貴(ふうき)の家(いへ)に居(い)ながらも 貧苦(ひんく)に逼(せま)るに異(こと)ならず
父母(ふぼ)未生前(みせうぜん)を尋(たづ)ぬれば 何国(いづく)の誰(たれ)が子(こ)なるぞや
【左丁】
生滅(せうめつ)知(し)らぬ直心(ぢきしん)成(な)るに 生死(せうし)取(と)るのも自己(をの)が所作(しよさ)
何(なに)を隔(へだ)てゝ生死(せうし)河(が)や 此岸(しかん)彼岸(ひがん)も只(たゞ)我(わ)が分別(ふんべつ)
不 生(せう)の生(せう) 不 滅(めつ)の滅(めつ) 来所(らいしよ)聞(きか)ねば去所(きよしよ)も見(み)ず
何国(いづく)にも暫(しば)し止(とま)らば住(すみ)かへよ。 筏(いかだ)を指(さ)すが如(ごと)くなり
一切(いつさい)有為(うい)の法(ほう)は夢(ゆめ) 本来(ほんらい)幻化の(げんげ)如く(ごと)也
無為(むい)法性(ほつせう)の都(みやこ)には 善悪(ぜんあく)邪正(じやせう)の花(はな)も無(な)し
六 藝(ぢん)【注1】や五 欲(よく)に耽(ふけ)る因縁(いんゑん)は 皆(みな)愚知(ぐち)無知(むち)の闇路(やみぢ)より
闇路(やみぢ)に闇路(やみぢ)踏重(ふみかさ)ね いつか覚(さむ)べき夢(ゆめ)うつゝ
品(しな)も数多(あまた)の善根(ぜんこん)功徳(くどく) 皆(みな)此中(このうち)に籠(こも)るなり
自(みづ)から信心(しん〴〵)廻向(ゑかう)して 直(ぢき)に心仏(しんぶつ)拝(はい)すれば
【注1 よみ ぢん】