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【右丁】
同心(どうしん)の謂(い)ひ直(ぢき)に聞(きゝ)直(ぢき)に見(み)余念(よねん)なくば即時(そくじ)に得(う)べ
し是(これ)万病(まんびやう)の一薬(いちやく)なり我(わ)が命(めい)不 思義(しぎ)に古稀(こき)
の齢(よわひ)を保(たも)つ全(まつた)く禅師(ぜんし)より凡(およ)そ三十 年(ねん)余計(よけい)の
齢命(よわひ)をあたへたまはりしと覚(おぼ)ゆれば肝胆(かんたん)に徹(てつ)し
( きも)
或時(あるとき)禅師(ぜんし)に向(むかつ)て師(し)一命(いちめい)を扶助(ふじよ)し給(たま)はる広大(くはうだい)
の恩(をん)何(なに)を以(もつて)か是(これ)を報謝(ほうしや)せむと云(い)ひければ師(し)云(いわく)恩(をん)
を思(おも)はゞ精進(しやうじん)せよ精進(しやうじん)是(これ)報恩(ほうをん)と是(これ)亦(また)思(おも)はず感(かん)
涙(るい)す又(また)世間(せけん)種々(しゆ〴〵)の法(ほう)は執着(しうぢやく)を忌(い)む一 切(さい)留(とゞ)めざれ
ば記憶(きをく)すべき事(こと)無(な)しと心(こゝろ)ふ生(せう)なれば自在(じざい)を得(へ)
水の流(なが)るゝ如(ごと)くとゞこほる事(こと)なし道志(どうし)の族(もの)暫時(ざんじ)
【左丁】
も懈怠(けだい)すべからず命(めい)は是(これ)天下(てんか)の本(もと)何(なに)にか比(ひ)せん此(この)命(めい)
( くらべ)
を思(おも)はざるゆへ不 忠(ちう)不 孝(こう)不 義(ぎ)の汚名(をめい)を取(と)る也 真実(しんじつ)
命(めい)をおもふものならで忠臣(ちうしん)孝子(こうし)なし真実(しんじつ)命(めい)を
おもはゞ生(せう)を不惜(おしまず)死(し)を不憎(にくまず)信力(しんりき)堅固(けんご)ならば陣中(ぢんちう)
又(また)は水中(すいちう)火中(くわちう)たりとも恐(をそ)るゝもの無(な)く自由自在(じゆうじざい)
を得(へ)て山河(さんか)大地(だいぢ)心(こゝろ)のまゝ成(な)るべし 吾(われ)四(し)十 余歳(よさい)の
頃(ころ)虚労(きよらう)の症(せう)疾来(しつらい)諸医(しよい)も手(て)をつがね【注1】既(すで)に落命(らくめい)
に及(およ)ぶ所(ところ)禅師(ぜんし)の慈恵(じゑ)に依(よつ)て我(わ)が自業自作(じがうじさく)の病(やま)
ひ成(な)る事(こと)を知(しつ)て即日(そくじつ)より心中(しんちう)変改(へんかい)して助(じよ)
命(めい)し今年(こんねん)既(すで)に古稀(こき)に余(あま)れり師(し)曰(いわく)心者(こころは)万徳(ばんとく)之(の)
【注1 手を束ね 何もしない】