翻刻
もふ一つあがりませんか。ゑんさんお茶づけわへ《箱:ゑん》腹(ふく)中まん〳〵さ
《割書:しあんてうしを|いぢつて見て》《箱:しあん》もちつとあつくしてくんなさへ《割書:いわしときすのほうろく|やき。かわりの吸物出るふた》
《割書:をとつ|てみて》《箱:喜の》イヤアかもせんば。葉付大根。ありがてへわへ《箱:しあん》料(りやう)
るもんだよ《割書:ト云所へ滝川が
か|かふろ来る》《箱:めなみ》若(もし)へお藤(ふじ)さんに。おいらんでおつせへす。あ
のけさのふみをとゞけておくんなんしたかと《割書:のれんをひつ|はりながらいふ》《箱:女房》ムヽそふ
申てくりや。けさ程三保蔵にもたせて遣しましたが。おるすだ
と申て御返事は参りませんと。申てくりや《割書:トかつての方を|むき》ノウ三保蔵
御返事はこなんだのう《割書:勝手|より》《箱:三保蔵》まいりません〳〵《箱:めなみ》
そんならあの。そふ申しいしやう《箱:女房》ちつとあそんでいかねへか
《箱:めなみ》しかられんすよ《箱:ゑん》コレあの子や《箱:女房》めなみあなたがなん
とかおつしやるよ《箱:めなみ》なんでおざりいすへ《箱:ゑん》おいらんととふ
ちさんによくいつてくりや《箱:めなみ》アイそふ申しいしやう《割書:ト出て|ゆく》
《箱:女房》とんだ利口な子でござります。三保蔵や其送り物
は。玉やのたか袖さんのおざしきへ行のだよそしてみつさんは七つ
にかへらつしやるそうたから。かごやがきたら三てふだよ《割書:そつちこつち|するうち》
ゑん二郎があいかた松田屋のおいらんおす川むかいに来る眉 ̄ハ如 ̄ク_二翠羽 ̄ノ_一肌 ̄ハ如 ̄ク_二白
雪 ̄ノ_一腰 ̄ハ如 ̄ク_二練素 ̄ノ_一#1歯 ̄ハ如 ̄シ_二含貝 ̄ノ_一嫣-然 ̄シテ一 ̄ヒ笑 ̄ハ_二惑 ̄シ_二陽城 ̄ヲ_一迷 ̄ス_二 下蔡 ̄ヲ_一
現代語訳
「もう一つ上がりませんか。縁さん、お茶漬けはいかが?」
(縁)「腹中満々さ。」
——思案が銚子をいじって見て——
(思案)「もう少し熱くしてくんなさい。」
——いわしとキスの焙烙焼き、替わりの吸物が出る。蓋を取ってみて——
(喜之助)「いやあ、かもせんばに葉付大根、ありがたいわえ。」
(思案)「料(りょう)るもんだよ。」
——と言うところへ、滝川の禿が来る——
(禿)「もし、お藤さんに、おいらんでおっしゃいます——あの、今朝の文をお届けしておくれなんしたかと。」
——のれんを引っ張りながら言う——
(女房)「ムム、そう申してくりや。今朝ほど三保蔵に持たせて遣わしましたが、お留守だと申して、ご返事は参りませんと、申してくりや。」
——と勝手の方を向いて——「のう、三保蔵、ご返事はこなんだのう。」
——勝手より——
(三保蔵)「参りません、参りません。」
(禿)「そんなら、あの、そう申しいしょう。」
(女房)「ちっと遊んでいかないか?」
(禿)「しかられんすよ。」
(縁)「これ、あの子や。」
(女房)「めなみ、あなたが何とおっしゃるよ。」
(禿)「なんでございますへ?」
(縁)「おいらんととうちさんによく言ってくりや。」
(禿)「アイ、そう申しいしょう。」
——と出ていく——
(女房)「とんだ利口な子でございます。三保蔵や、その送り物は、玉屋のたか袖さんのお座敷へ行くのだよ。そして、みつさんは七つにかえらっしゃるそうだから、駕籠屋が来たら三丁だよ。」
——そちこちするうちに、縁二郎の相方、松田屋のおいらんお州が向かいに来る——
眉は翠羽の如く、肌は白雪の如く、腰は練素の如く、歯は含貝の如し。嫣然として一たび笑えば、陽城を惑わし、下蔡を迷わす。